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伽羅の言葉を聞きながら、蘇芳はひっそりと肉体を境界とした内側にいるはずの白銀に声をかける。
「兎さん、」
『なんだよ』
「言いましたよね? 兎さん以外の夢獣は意志を持たないって。それなら、あの人に憑いているのは、なんですか」
堅い声で呟いた蘇芳に、低い白銀の声が届く。
『あいつは、別だ』
「夢獣ではないと?」
『いや、同じものだ。ただ、喰いすぎたんだよ』
「?」
『消えたくない。その妄執に取り付かれるほどに、魂の器を喰らいすぎただけだ』
「あの夢獣が、今まで氏神さんが憑いた人間を残らず食べてきた、ということですか」
『喰われれば、小僧も妄執の仲間入りだな』
「兎さん!」
抗議するように蘇芳が上げた声に、白銀は舌打ちでもしたようだった。
『俺にとっても、あれは因縁の相手なんだよ』
「え?」
『あれは、俺を創った残りの要素で作られた』
「同じ、骨と血と、ということですか?」
『あぁ。そして、一番初めに失敗作とレッテルを張られてずっと封印されていた、金華猫を核に作られた夢獣だ』
「だから、だからせめて。あの男の次は露チャンじゃなく、あんたよ!」
「伽羅! あんたが操られてるにしても、蘇芳に手を出すなら、赦さないよ!」
「どうして!?」
間髪入れずに噛みつく様に叫んだ露草に、伽羅が愕然としたように目を見開く。
途端に、伽羅が酷く顔を歪めた。
「痛い! なにするんだい!」
自分の身体を抱きしめるように回された腕の中で、伽羅の身体がうねうねと動く。
「止め、嫌だ!」
「なに、」
『近づくな!』
唐突にがくんと膝をついた伽羅に、蘇芳が目を丸くして足を踏み出そうとすると、鋭い静止が頭に響いた。
『ふふ、うふふふふふふふふ』
一瞬その声はどこから出ているのか、蘇芳には解らなかった。
それは、深淵から届くような、声。
対面で顔を上げた伽羅の目に、もう先ほどまでの光はなかった。




