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乾いた笑いが口から零れる。
世界っていうのはどうしてこう、ままならない。
伽羅が限界を感じ始めたのは高校に上がってすぐだった。
中学の間は、向かうところ敵なしだった。
それでも、驕りもせずに鍛錬してきたつもりだった。
それなのに、がくんと目に見えて勝てなくなった。
勉強は平均より下。
運動もそんなに得意とはいえなくて。
容姿だってやっと人並み程度。
唯一誇れるものが、空手だった。
伽羅を形作るもので、伽羅を世間と向き合わせてくれるもの。
それを手放すわけには、どうしてもいかなかった。
そんな時、声が聞こえた。
『ずっと、勝ち続けていたいのね』
『私の願いはひとつだけだから』
『協力してくれるなら、叶えてあげる』
『貴女の望む夢を、ずっと見せてあげる』
「本当に、叶えてくれる?」
畏れることも、訝しく思うこともなかった。
伽羅は、答えてしまったのだ。
強いふりをした仮面の下で、本当は伽羅はどこまでも弱い。
けれど、それを知っているのは、その時まで伽羅一人だけだった。
『勿論。貴女が協力してくれるなら』
「いいわよ」
伽羅がその存在が何なのか知ったのは、その後の事だ。




