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唐突に、スピーカーから響いた校内放送を告げるチャイムに、蘇芳は驚いて顔を上げる。
「こんな時間に、一体何かな」
呟いた鴇の台詞には訝しさの他に、若干の不安が滲んでいた。
昼食にはまだ時間が早い上に、今は授業中だ。
本来であればこんな風に放送はかからない。
「緊急放送、緊急放送。構内の学生教員など全てに告ぐ」
スピーカーから零れたのは、明らかに学生の声ではなかった。
「事務部長の声のようだね」
「事務部長?」
「この学園を統率するのは理事長。その下に副理事長がいて、校長と続く。実質的な教員の統率を任されてるのが事務部長で、教頭のようなものだね」
鴇の説明の間にも、切迫したような声は言葉を続ける。
「数名の学生が体調不良を訴え、近くの病院に搬送されました。体調の優れないものは無理をせずに帰宅するか保健室を利用するように。また、周囲で具合の悪そうな学生を見かけた場合は、早急に対応をお願いします」
「これ、もしかして」
露草が嫌そうに目を細めた途端、場違いな音楽が部屋に響いた。
「放送のことかな?」
ポケットから取り出した携帯電話を取るなり、鴇は名乗りもせずにずばりと口にする。
会話はそのまま継続されて、電話口の相手が戸惑った様子も感じられなかった。
「なるほど。あぁ。此処にいるよ。伝えておく」
「鈍さん、ですか?」
携帯電話を仕舞って、鴇は頷く。
「君たちは今日は一度帰宅した方が良い」
「でも」
「私と鈍とで、少し探ってみよう。君たちは早急に、君たちの家系の力の強い人間に、対応策を確かめてくれないかい」
「対応策?」
「どうやら君たちの敵は、この学校中を巻き込むつもりのようだ」
「はぁ? それ、どういう」
「鈍の話だと、海松のような状態の学生が、少なくとも五人はいるそうだ」
「五人?」
「二人は眠り続けていて、三人は海松のように何かに憑かれたようになっていると聞いた」
「眠り、」
かちりと、蘇芳の頭の中でピースが嵌る。
『あたし、実験体なのー』
「蘇芳?」
がたんと音を立てて椅子を引いた蘇芳に、露草が驚いた様に顔を向ける。
「ちょっと、顔色悪いよ。いったいどうし」
『あたし、呼ぶほーじゃないから。被害のちーさいもので実験しよーってことで、上手くいったら、露草君にも適応したかったみたいだよ?』
露草の代わり。
そう認識されているのだとしたら、夢獣使いが今、手探りで動いているのは、もしかして。
兎耳が帽子の中で同意するように揺れた。
さぁっと蘇芳の頭から血の気が引く。
「会長、露草をお願いします! 露草、木路蝋さんに連絡してください。何が何でも、早急に来てくれるように。私達だけでは、駄目です!」
そう叫ぶなり、蘇芳は部屋を飛び出した。
最初の襲撃から、どれくらい時間が経ったのだろう。
もう、取り返しがつかないかもしれない。
全ての声を振り切って、蘇芳はただひたすらに廊下を走り抜けた。




