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学校内の一体どこが密談に向いているのだろう。
転校生の蘇芳は勿論、露草もそう言ったことには詳しくなくて、見兼ねた鴇が、良かったら生徒会室の横の応接室を使ってくれたまえ、と助け舟を出してくれた。
「幸いに、他の役員はこれからの時間は授業だからね。多分、誰もいないと思う。それに、あそこの鍵は、私しか持っていないんだ」
鴇がポケットから取り出した鍵には、妙な顔をしたマスコットがついていていて、ゆらゆらと揺れる。
「さて、私は同席しない方が良いだろうね」
「いえ。できれば一緒に来てください」
「でも、いいのかい?」
ちらりと鴇が投げた視線に、けれど露草は表立って反論することなく、何でも良いから早く行くよ、と廊下を足早に進んで行く。
「あの、」
「ん?」
露草の少し後ろをついていく形になった蘇芳は、こそっと鴇に声をかけた。
「鈍さんは」
「あぁ。海松をね」
「みる?」
「ほら、鈍に付き従ってる口の悪い嫌なやつがいただろう?」
「あ、もと番長さんですか?」
蘇芳の言葉に鴇はちいさく笑う。
「まあ、のしたままあそこに置いておくわけにも行かないからね。保健室に運ぶように言っておいたんだ」
その言葉に、蘇芳はふと自分がのした二人組を思い出した。
だれか、見つけてくれただろうか。
あの廊下は、人通りが少なくはないと思うのだが。
「どうかしたかい?」
「いえ」
いつの間にか辿りついていた応接室前で、道を譲った露草の前に立って、鴇が鍵を回した。
かちりと、響くように鳴った錠の開く音に、蘇芳は何故かぶるりと身震いする。
何か、忘れている気がするのに、蘇芳はそれが何かを掴むことができなかった。




