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授業中かどうかも構わず教室に飛び込んだ蘇芳は、見慣れた後ろ姿を見つけて思わずそのまま飛びついた。
それだけで安心してしまっていたから、気づかなかった。
その肩が何処か張りつめたように身を固くしていたことに。
「ちょ、蘇芳!?」
露草は驚いたらしかったが、それでも声を上げるようなことはなかった。
潜められたままの言葉が訝しげに頭の上に振ってくるが、蘇芳は答えず首に回した手を緩めない。
「一体なんなのさ」
「やあ、初めまして」
露草が声の方を振り向いたのが解った。
「鴇先輩?」
「おや、名前を知ってくれているとは、嬉しいね」
「有名人じゃないか。誰でも知ってると思うけど」
「いやいや。生徒会長と呼ばれることばかりが多くてね。だから、初対面から名前で呼んでもらえるのは嬉しいよ」
「僕に何か用なの?」
「いやいや。無かったようだ」
その言葉に漸く顔を上げると、露草が訝しげな顔をして、鴇を眺めている。
「すみません、会長。無駄骨を折っていただいたようで」
私じゃない、というなり駆けだした蘇芳を鴇は態々気にかけて追いかけてきてくれたのだ。
露草から離れて、蘇芳がぺこんと頭を下げると、鴇は苦笑して手を振った。
「いや。無駄骨に越したことはないからね。それじゃあ、私は失礼するよ」
「ありがとうございました」
「ちょっと、一体なんなのさ」
一人蚊帳の外の露草が抗議の声を上げたので、蘇芳は場所を変えようと露草を促す。
「あ、でもまだ次の授業が、」
「いいよ。急ぎなんだろ」
珍しくあっさりとそう言って露草が立ち上がった。




