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宙でぱちりと指を鳴らした鈍を、蘇芳は威嚇したように睨んだままでいる。
口笛でも吹いた方が余程遠くまで音が聞こえるだろうと、蘇芳が頭の端の方で考えた時、鈍が不意に視線を滑らせた。
「緊急時以外、接触しない筈だろう?」
酷く不機嫌な声は聴き覚えがある。
「世間で評判の生徒会長は、女子生徒の相談には何処へでも駆け付けると聞いた」
「お前の何処が女子生徒なんだい、鈍」
鈍の身体の影から現れた人物に、蘇芳は驚きつつも心の何処かでそうではないかと思っていたことに気づいた。
「会長、さん」
「おや、君は蘇芳君じゃないか」
驚いた様に声を上げて、鴇が訝しげに蘇芳と鈍を交互に見やる。
「なんだ、私を止めておきながら、結局接触したのかい」
「不可抗力だ」
少しばかり不機嫌さをにじませた鈍が顎で示した先で気を失う元番長に視線を移して、鴇はどうやらすぐさま的確に状況を把握したらしく、呆れたように肩を竦めた。
「成程。面倒なことになっているようだね」
「あの、お二人は、」
「鈍がどこまで話したのか知らないがね、少し変わった能力のある一族にお互い属しているだけだよ」
鴇はそう言ったが、これまでのように敵対するように見せていた二人は其処にはいなかった。
少なくとも敵ではない。
それだけでも解れば十分だ。
けれど同時に、萌葱も元番長も鈍も鴇も違うのならば、蘇芳には他に当てがない。
「最近空気が張ってる」
「全く。神聖な学び舎の空気を汚すとは。生徒会長として許しがたいね」
「敵視されてるのは、この兎だな」
「兎はどっちでもいいが、女性に手を上げる輩を放置しておくわけにもいかないね」
「私じゃありません」
思わず声を上げた蘇芳に、二人が訝しげに振り返った。




