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『小僧はどうした』
「兎さん?」
思わず帽子に手を遣って、蘇芳は階段の途中で足を止める。
こうしている間に、露草に手が回っていたらと考えるだけで恐ろしい。
「そうでした。私は、こんな風に余裕ぶってる時間はないんです」
向こうの校舎の窓に照り返した反射に、階段下で男子生徒が目を細めた。
そのまま足場を蹴って、蘇芳は手すりを軸に、男子生徒を蹴り飛ばす。
そんな反撃を予想していなかったのか完全に蹴りを喰らった男子生徒は角を曲がってきた女子生徒に激突して、二人は廊下の壁に背中を強か打ち付けた。
「申し訳ありませんが、手加減はできませんよ」
直ぐに距離を詰めると、蘇芳は指を擦って起きた静電気で、二人の意識を遠ざける。
兎を食べてから、随分と身体に電気が溜まるようになった。
祓う力を持たない蘇芳に、木路蝋が授けたのは相手の倒し方と、それからこの電気の応用方法だった。
取り敢えず夢獣が憑いていても、人間側が意識を失えば、夢獣のコントロールも失われる。
蘇芳に出来るのは此処までだ。
尤も、祓うことはできなくても、食べてしまうことは出来る。
ただしそれは、人間側の意識を落とすか、或いは人間側が離れたいという明確な意思を持ってくれなければ接続した意識ごと食べてしまうことになる。
そうなれば人間側は、その分の記憶を喪失する羽目になるのだ。
取りあえず、これを食べるかどうかよりも重要なことがある。
目立つこの場所なら、通りがかりに誰か見つけて保健室にでもつれていってくれるだろう。
くったりと意識を失った二人をそのままに、蘇芳はすぐさま露草のいるはずの教室に向かって踵を返した。




