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ふわりふわりと雲が流れる。
屋上には人影が一つ。
『まだ動かないの?』
唐突に聞こえた声に僅かに眉を顰めることで答えると、その声は不機嫌に唸った。
『良いじゃない』
「よくない」
『良いわよ。これ以上待って、一体何の得があるの?』
姿は見えないのに聞こえる言葉を不思議に思うでもなく、けれど何も答えずにいれば、その声はますます苛立ったように声を高める。
『約束したじゃない』
「解ってる」
『解ってるなら、どうして動いてくれないのよ。あんな不適任者に消されるなんてまっぴらだわ』
わんわんと耳の中で声が響くような気がした。
実際その声が本当に耳朶を揺らしているのかは、誰にもわからないのだけれど。
軽やかに身を起して、目を細めた。
時間が戻っても、多分同じことをしただろう。
だから、もう次の一手は決まっているのだ。
「行け」
その一言を待っていたように、響いていた声がぴたりと止まった。




