062
一日が、随分長かった気がする。
教室に露草を送り届けて、蘇芳は一人渡り廊下を歩いていた。
正式な授業登録の確認があるのだと、教員からプリントを受け取ったのは先ほどだ。
職員室に向かいながら、蘇芳は少し足を速めた。
木路蝋の使いを果たそうとして、人前で帽子が取れて、弱い自分を見つけて、山吹の告白を聞いて、強くなりたいと望んで、そして、知らなかった事実にぶつかった。
でも結局、現実はぐるりと一回りしただけだ。
兎を食べたあの日から、いや、その前から、結局何一つ変わってはいない。
蘇芳はいつでも、露草に依存している。
そして露草の方は、その体質のせいで蘇芳に依存しざるを得ない。
お互いに依存したこの関係は、酷く危うい。
いや、危ういのではなく脆いのだと気づいて、蘇芳は帽子に触れて目を細めた。
『いつも、欲しいものばかり数えてますね』
「そうですね」
昨日は答えられなかった言葉に、蘇芳は頷く。
『自分の掴んでいるものすら、解らないんですか』
「見て見ぬふりをしてました。でも、もうやめます」
『他人の芝生ばかり眺めて、目を逸らしているから、手に入らないんです』
「本当は解ってるんです。一つだけ手に入れたものも」
『少なくとも、小僧に喰われてあいつと一緒に憑くことにならなかったことに関しては、お前に礼を言っとく』
宙に伸ばした掌を握りしめた蘇芳の耳に、身体に戻る前に兎が囁いた一言が蘇った。




