059
「あっ」
ぐらりと揺れた体を蘇芳は慌てて受け止めて、それから腕の中の二体の日本人形がすっかりただの人形に戻ってしまったことに気づいて、はっとして露草の身体に視線を戻す。
「っ」
「露草?」
「ごめん」
すっかり露草らしさを取り戻した露草が、慌てて蘇芳の支えから身を起こした。
「木路蝋さん、このお人形は」
「溜めてた神気も使い果たしちゃったから、暫くは憑代にはなれないわ。祠で清気を浴びて休憩かな」
「禍いモノに入られても敵わないから、尾花。もう、祠に置いてきた方が良いんじゃない?」
十文の言葉に、木賊が頷く。
「悪いけど、そうして」
「解ったわよ。行ってくるわ」
ふわりと二体の人形を抱き上げて、尾花が部屋を出ていくと、なんだか部屋の中がすっかり淋しくなったような気がした。
「ちょっと聞きたいんだけど、結局具体的には、どうしたら良いわけ?」
「小物については、いつもの通り祓って行けば問題ない」
「一匹ずつ祓うってわけ?」
「いや。最終的には、お前達二人の力を借りて一気に片をつける」
「だから、どうやってさ?」
「忘れたかもしれないけど、あの時と一緒」
さらりと答えて、木賊の目が蘇芳を捉える。
「私が、兎さんを食べた時ですか?」
「そう」
「陣を作って、我が義弟と織様には囮になってもらう。そこを兎耳のお嬢さんと一網打尽てこと」
「木賊、陣の準備にどれだけかかる?」
木路蝋の言葉に立ち上がって奥の桐箪笥から何かを探し出した木賊が振り向いて肩を竦めた。
「少なくともだけど、二週間」
木賊の手にしたいろいろな色の細長い布をぼんやりと眺めていた蘇芳は、それが五行思想に由来する色合いであることに気づく。
「長いな」
「万全を期すなら、それくらいの時間は必要だと思うよ、木路蝋」
やんわりと十文に窘められて、木路蝋は小さく舌打ちすると立ち上がった。
それから大股に部屋を横切る。
「何かあれば連絡を寄越せ」
「はいはい」
「帰るぞ」
「え?ちょっと」
「気を付けてね」
十文にひらひらと手を振られて、さっさと部屋を出ていく木路蝋を、露草と蘇芳は顔を見合わせて慌てて追いかけた。




