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あいろこいろ  作者: カラクリカラクリ
本編
57/104

056

『蘇芳』


言葉の中に混じった不安げな響きを聞き取って、蘇芳は人形の露草に笑って見せた。


「大丈夫です、露草。そんなことはしませんから。私も解っています」


大丈夫だ。

もともと、織と事を構えようなどと思ったわけでもない。

此処に来るまでの、纏わりつくようなあの視線の正体。

それを漸く理解して、蘇芳は、もう一体の人形に向き直る。


「兎さん」

『ったく。それも、忌々しい呼び名だな、おい』

「私に力を貸してください」

『はぁ?』

『ちょっと、蘇芳』

「蘇芳ちゃん!?」

「お前!」

「おやおや」

「遠回ったけど、結局こうなるか」


織だけがただ何も言わず、楽しそうに音を立てて扇を閉じた。


「お願いします」

『お前なぁ』


兎耳の日本人形に、蘇芳はひたと視線を合わせて畳に額をつけるように頭を下げると、呆れたように兎耳がため息をつく。


『馬鹿』

「え?」

『あれだけ豪快に喰っておいて、今さらお願いなんてガラかよ』


其処には否定のニュアンスはなくて、蘇芳は思わず顔を綻ばせて人形を抱きしめた。


『おい!』

「ありがとうございます」

『結果も知らずにお礼なんざ、酷い目に遭っても知らねぇぞ』

「それでも、ありがとうございます」


強くなりたい。

露草を護る最後の時まで。

存在意義がある、その一瞬まで。

それが、少しでも長くあるように。

言葉にはしなかった言葉を、兎耳はどうしてか感じ取ったようで、蘇芳の腕の中で、本当にひっそりと呆れたように目を細めた。

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