055
「私と露草が?」
「そうじゃ。まともに風に向かうには、お主ら二人の協力が必要不可欠ということでの。まぁ、協力を仰ぎたいというわけよ。強くなりたいと望んでいたお主たちには異論はあるまい?」
思わず顔を見合わせた蘇芳と人形露草に、兎耳が小さくため息をついた。
兎耳に気づいて、蘇芳ははと思い至る。
「あ、あの。兎さんにとっては、夢獣は仲間ではないのですか? 本来ならば、あちらにつくはずでは」
『そうだよ、どうしてこの兎が協力するわけ?』
そう、白銀は夢獣だったのだ。
いくら今は、蘇芳が喰らってしまったとはいえ、仲間を全滅させるのに手を貸すなんて好い気がする筈がない。
「ま、尤もな疑問と言えばそうよの」
素っ気なく呟いた織は、けれどそれ切り口を噤んで、流し目に兎耳を見遣った。
つられて視線を動かせば、部屋中の視線を集めた兎耳は居心地悪そうに身じろぎして、それから大きなため息をつく。
『…わけねぇだろ』
「え?」
『なりたくて夢獣になった奴なんていねぇよ』
『はぁ? どういうことだよ?』
『誰も望んじゃいなかったさ。どいつもこいつも泣き声がうるせぇんだ。とっくに自我なんざ、なくしちまったはずなのによ』
吐き捨てるような兎耳の言葉に、蘇芳は驚いて木路蝋や織を仰ぐ。
露草の姿をした氏神は、微かに肩を竦めて何処から出したのかひらりと扇を開いて見せた。
「言ったであろう。夢獣とは、化ノ物を核に、不四象の骨と貘の血、僵尸の髪や爪で造られたのじゃ。自我を奪われた道法使の哀れな式よ」
「…酷い、です」
「蘇芳ちゃん?」
肩に乗せられた尾花の手を払って、蘇芳は織に襟元を掴む。
「酷いです! 酷いです! 酷いです!」
がくがくと揺らせば、呆気ないほど簡単に露草の身体は倒れて、蘇芳は馬乗りになったままぱたぱたと落ちてくる涙を止める術を知らなかった。
「何なんですか。使うだけ使って、いらなくなったら捨てるんですか? どうしてそんな風に、淡々と言えるんですか!?」
「わしはどちらでも構わぬ。夢獣を放っておいても、わしはただ、氏神であり続けるだけじゃ。ただ人間が害を受け、夢獣は血の涙を流し続け、わしや白銀の憑代が寿命を削られ続ける。ただそれだけのことよ。それで良いなら、止めはせぬ」
「!」
行き場を失った蘇芳の手が、感情のままに織の入った露草の顔のすぐ横の畳を思い切り叩く。
それにびくりと身を竦めたのは、尾花と十文。
木路蝋と木賊は彫刻と化したように動かず成り行きを眺めるままだ。
「貴方が、露草の身体に入っているのでなかったら、思い切り殴ってましたよ」
「だろうの。お主は一族以外のものじゃ。わしを畏れることもあるまい」
織を突き放して、蘇芳は振り返らないままに呟くと、後ろで身を起こした織が微かに笑った。




