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「睨むなよ」
「これが、睨まずにいられますか? だって」
言葉に詰まった蘇芳の膝を、人形の露草がポンと叩いた。
『別に僕の事は良いよ。それより、馬鹿当主。これは、いつまでこのままな訳?』
「それは、君と織様が別で別でいられるのはいつまでってことかな?」
首を傾げた木賊に、露草人形はそうだと頷く。
『この氏神様は、僕の中から出られないってことは何となく解ったよ。でも、これが、さっきあの馬鹿が言ってた、夢獣全部を滅ぼすっていう鍵を握ってるんだろ? だったら、強いってことじゃない訳? なんで僕は、祓いの力が弱いのさ』
「それは至極簡単だの。わしの力を押さえているがゆえじゃ。人間一人の器に神の力は入りきらん。使えば、お主の身体が壊れてしまうわ」
『はぁ? それじゃあ、あんたは無能ってわけ?』
露草の歯に衣着せぬ物言いに、一瞬座敷の空気が凍った。
『ぷはっ。今回の小僧は威勢がいいじゃねぇか。嫌いじゃねぇぜ』
織の手の中から抜け出した兎耳が、とてとてと露草人形に近づいてその背中を思い切りたたく。
『った! 何すんだよ!』
「ほう。白銀に気に入られたか。珍しいのう」
『お前よか、この小僧のが何倍良いぜ』
「まあ、それならそれでよい。何せ、わしと白銀、どちらが欠けても夢獣は全滅させられぬからの」
「どういうことなんですか?」
訳が解らない蘇芳を振り向いて、織が軽く指を振った。
「まぁ、いうなればの。わしの力を人間の身体で使うためには、白銀が必要なのじゃ。つまり、白銀の器であるその方と、わしの器であるこの方。二人で一人という訳よ」




