053
「結構な口のきき方じゃの」
『あぁん? 充分だろ、馬鹿殿』
「言うことに欠いて、それか?」
『誰も起こせなんて頼んじゃいねぇんだよ。たく、幼気な小娘揺さぶりやがって』
露草もどきの手から逃れるように、ぴょんと立ち上がった兎耳の生えた日本人形は、その憂えある表情のまま深い闇色の瞳を鋭くする。
「ふん。さっさと縁を切りたいのは、お主の方じゃろう?」
『それは否定しないでおいてやる。起こした以上は、それなりの成果を見せてくれるんだろうな?』
ばちばちと火花の飛ぶ視線に呆気にとられた蘇芳は、尾花や十文が緊張したような面持ちで二人を見つめているのに気が付いた。
「あの、」
「喧嘩は止めて、自己紹介くらいしてくれないですか、織様? それでなくても話が進まないですから」
木賊だけが、喋り方以外特に変わった様子もなく、露草もどきをそう言って嗾ける。
「おぉ、そうさの。織で構わぬ。こっちは、白銀じゃ」
『おい、ちょっと待て。いつまでお前のつけた妙な名で呼ぶつもりだ?』
抗議の声を上げた兎耳に、織はしれっと舌を出すした。
「仕方なかろ。お主に他に名はあるまい」
『あぁ!?』
「全く。少しも話が進まないですね」
呆れたように肩を竦めて、木賊は早々と見切りをつけたらしい。
露草の入った人形と蘇芳を振り向いて、木賊は織を示して見せた。
「簡単に言うけど、こっちは、呪術師の家系が祀っていた氏神。それでこれが、一番最初に作られた夢獣の元になった核」
『核? なんだよ、それ』
「あぁ、禁書には書いてなかったか。夢獣は、化ノ物を核に作るんだ」
「バケノモノ?」
「齢を経た動植物よ。金華猫、九尾狐、蛟、なんかがいい例かな」
幾分か表情を和らげた尾花が応えると、兎耳が途端に不機嫌そうな顔を向ける。
表情は変わらないのに、瞳だけで何となく感情は読めてしまうものだ。
『あんなのと一緒にするな』
「す、すみませ」
「全く。お主は隙あらば罰しようと待ち構えておるの。そうびくびくさせるでない」
『おい!』
ひょいと兎耳の人形を持ち上げて、織が微かにため息を零した。
「どうしても、と氏子に頼まれての。夢獣造りに手を貸してしもうたのよ。もう、何百年も前になるかの。これが片付くまでは、あちらにも帰れぬ。それゆえ、代々憑代として身体を貸してもらっておる。夢獣共は、わしが夢獣退治の中心と解っておるでの、憑代の子どもを潰しては、自由が利かぬようにしたいと思っておるのよ」
「ま、待ってください。それじゃあ、露草が夢獣に狙われるのは」
「うむ。わしが中におるからゆえよ」
あっさりと頷いた織に、蘇芳は握りしめた拳の矛先を決めかねて、神妙に座る木路蝋を思い切り睨んだ。




