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呆気にとられた蘇芳が、はっとして頭に手をやると、生えているはずの耳がなかった。
「どういう、」
「説明してやるから、さっさと露草を起せ」
「まさか、」
半信半疑のまま額の符に、口づけると、やはりこちらもぶるぶると身を震わせる。
「つゆ、くさ?」
ぽっかりと開いた瞳の色が、見慣れたものとそっくりな気がして、蘇芳の口から思わず言葉が零れ落ちた。
『ちょっと、これどういうことだよ?』
不機嫌な声が耳に届く。
独りでに立ち上がったその人形は、仁王立ちで木路蝋を睨んだ。。
『未完の小説並みに迷惑なことしてくれるよね』
「妙な例えだな」
『うるさいな。頭がまわんないんだよ』
「この方が、説明がしやすいと思ったまでだ」
素っ気なく呟いて、木路蝋が露草の身体に入った何かを振り返る。
「これでいいだろ」
「そうだね」
木賊がその瞳を覆っていた手を外したが、その視線に捉えられても、蘇芳はもう妙な悪寒は感じなかった。
「なんだ、外してしまったのか。つまらぬの」
兎耳の生えた日本人形を抱き上げて、露草もどきは慣れた手つきでそれを撫でる。
「ほれ、いつまで寝ておるつもりか。はよ、起きれ」
『起してほしいなんて、誰が頼んだよ』
唐突に響いたのは、聞き覚えのない、けれど何処かで確かに聞いたことのある声だった。




