051
露草の額から移された符が、木路蝋の手の中の、平安貴族のような格好の人形の額にぺたりと張られる。
「おい」
「え?」
それが自分を呼んでいるのだと気付いて顔をあげた、蘇芳に、木路蝋が無造作にそれを放った。
「!?」
危うくキャッチして、蘇芳は胸を撫で下ろす。
精巧な造りのそれは、多分目玉の飛び出るような値段のはずだ。
「どうして投げ」
「妙な起こし方をしてくれるものよの」
蘇芳の言葉を遮ってふあと欠伸を零して起き上がった露草は、露草ではなかった。
片方の目が、燃えるように朱い。
息を呑んだ蘇芳に気づいて、その露草の身体をした何かは驚いたようにその目を瞬かせた。
「ほう。これもまた、妙だ」
「っ」
ざわりと身体の中で何かがざわめいてうごめいて、蘇芳は危うく取り落としそうになった二対の人形ごと、自分の身体を抱きしめる。
そうでもなければ、その視線に耐えられそうもなかった。
不意に、伸びてきた手が、その朱い瞳を覆い隠す。
「む?」
「織様。貴方の視線は、今のこの娘には強すぎる」
それは抑揚のない木賊の声で、露草の姿をした何かは不満げに口を尖らせた。
「だが、これでは話し難いぞ」
「そうですね。木路蝋、」
「たく、回りくどいんだよ、木賊。おい、蘇芳」
がりがりと髪をかいた木路蝋の言葉は、一瞬の後に蘇芳の頭に染み込む。
「今、」
名前で呼ばれたことなどなかったのだ。
木路蝋は多分今まで、意図的にそうしてきた。
だから、今の此れにも何らかの意味があるのだろう。
「露草を返して欲しいなら、その人形に口付けろ」
「人形に、ですか」
「あぁ。二体ともだ」
「少女は頬、少年は符の上から額に、ね」
そっと手を添えた尾花に従って、口付けを落とせば少女の人形は不意にふるふると震えて、唐突にぽんと頭から兎耳を生やした。




