004
午後の三コマの授業を終えると、もう外は薄暗い。
少し前までは、帰りに寄り道しようか、と考えてしまうほど長かった陽が今は少し憎らしくなるほどには、短い。
揃って校門を出た蘇芳と露草は、特に歩調を早めるでもなく家路を辿る。
涼しさを増した風が、蘇芳の帽子から出た髪を揺らした。
「あんた、こっちじゃないだろ」
「美味しいお弁当も食べましたし、挨拶に行こうかな、と思いまして」
途端に露草が弾かれたように顔をあげる。
「なに、まさか居るの?」
「え? はい。来いって言われましたよ」
あっさりと蘇芳が頷くと、往来にも関わらず、露草が頭を抱えて小さく呻いた。
「あぁもう。あんたが来た時点で、予測できたはずなのに!」
「あの、」
「僕は帰らないからね!」
「帰らなくて、どうします?」
「そんなの」
「良く考えてください。これから、夜です」
うっと言葉につまった露草に、畳み掛けるように蘇芳はぴたりと指を指す。
「ということで、露草が帰らないのに挨拶に行ったら、叩き出されます」
「そうかもね」
「かといって露草についていっても、挨拶に来なかったと怒られます」
ぴんと立った人差し指と中指を、露草は親の敵のように睨みつけていたが、蘇芳がそれをゆらゆら揺らすと、諦めたようにため息をついた。
「あぁもう。解ったよ」
「助かります」
「別にあんたのためじゃないんだからな。木路蝋がその気なら、逃げたって無駄だって気付いただけで、」
従兄弟に当たる人物の名を吐き出すように告げて、露草は少しだけ歩を早める。
「露草は、そんなに木路蝋さんが苦手ですか?」
「苦手? 冗談じゃないよ。でも、あいつに会わなくて済むなら、生徒会長に握手でも求めた方がマシだね」
人混み嫌いな露草にしてみれば、随分大袈裟な言いようだ。
昼に食堂であれだけ近づきたがらなかった人間よりも、従兄弟が鬼門という訳である。
「あんたも、つくづく災難だよね」
露草がしみじみと呟いた言葉は、夕暮れの空気に融けて消えた。