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時は遥か彼方まで遡る。
西の帝の寵愛を受けていたのは、呪術士と呼ばれる人々だった。
東の帝の寵愛を受けていたのは、祈祷師と呼ばれる人々だった。
どちらからも省みられなかったのが、道法使であった。
歴史の闇を紡ぐ道法使が生み出したもの。
それが夢獣だ。
夢獣は、不四象の骨と貘の血。それから、僵尸の髪と爪で造られる。
夢獣は人間の夢を喰らい、運やツキというエネルギーを得ては、囁くように人間を不幸にする。
道法使は、彼等を世界に解き放った。
夢獣を祓う術を持つのは、彼等を造り出した道法使だけ。
跪くなら、助けよう。
拒絶するなら、滅ぼそう。
「ちょっと、これ」
呆然と顔を上げた露草に、けれど木路蝋は揺らがなかった。
「ま、当然の反応だよな」
「そうだろうけど、こっちは普通」
木賊に顎で示されて、蘇芳が反論する前に、後ろから伸びてきた手が、がつんと木賊の頭を殴る。
「さっきから聞いてれば、木賊。あんたの相手初心者の子たちなんだから、意識的に言葉補いな」
「解ってるけど、仕方ないだろ」
にらみ合う尾花と木賊を放って、十文が肩を竦めた。
「禁書の由縁が解ったかい? 二人とも」
「これが、事実なんですか? 木路蝋さんは、いつ知ったんですか? これは、誰が知ってることなんですか? そもそも、」
「口を閉じろ」
矢継ぎ早に口から零れた疑問に、木路蝋がうんざりしたように待ったをかける。
「先に言っておくが、俺たちの家系は途中で道法使と呪術師が混ざって今に繋がる。道法使は取り立てられるようになると、俄か仙術も行使するようになるんだが」
「仙術?」
「霞喰って生きてる、不老不死を求める奴等の技だな」
物凄くざっくりした十文の説明に、木路蝋は微かに目を細めたが、そのまま言葉をつづけた。
「その仙術の原理が、表向きの夢獣の説明に近い」
「え?」
「夢獣は人の夢を司り、悪夢を喰らい、悪夢を植え付け、吉夢を見せ、吉夢を奪う。一匹の夢獣を喰らい使役できるようになれば、悪夢は失せる。また、周囲の人々から夢のエネルギーを得て、老いることもなくなる」
淀みなく紡がれた言葉に、蘇芳は帽子に手を伸ばす。
帽子の下で、兎耳が存在を主張するようにぴこぴこと揺れた。




