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木路蝋が漸く車を止めたのは、大きな日本家屋の前だった。
玄関の真ん前に車を止めて、木路蝋はあっさりと車を降りる。
玄関から出てきた和服の女性が、彼を見て呆れたように肩を竦めた。
「やっぱり、あんたか。相変わらず、馬鹿みたいな運転してくるんじゃないわよ!」
「馬鹿みたい? 何処かだ」
「しかも、若い子乗せてきてんじゃない! あり得ないでしょ? そろそろ本気で見切りをつけたくなるわね」
木路蝋の言葉を総無視して、彼女はこちらに近づいてくると肩を叩く。
「もしかしなくても、露草君と蘇芳ちゃんかしら?」
「僕らのこと、知ってるわけ?」
「勿論よ。この馬鹿に聞いてるわ」
「言葉を慎め」
馬鹿呼ばわりされた木路蝋は鼻を鳴らすとさっさと玄関を入っていった。
「あの、車は」
堂々と止められた車に、蘇芳が尋ねると彼女は目を瞬いてからからからと笑う。
「大丈夫だって。此処、うちの敷地内だから。誰の迷惑にもなんないわ」
「え?」
「は?」
揃って素っ頓狂な声を上げた蘇芳と露草に、彼女はひらひらと手を振って周りを示した。
「ちょっと、暗いから解んないわよね。あの先にある石垣までうちの敷地なのよ」
ぽつぽつと灯る街灯の向こうの方に、確かに石垣が見える。
けれどそこまで歩けば5分はかかりそうだ。
「さ、良いから上がって。いくらうちの敷地でも、外は夜は分が悪いじゃない」
促されるままに玄関を入って、蘇芳と露草は顔を見合わせた。




