035
難しい顔をしている木路蝋の前に正座をして、かれこれ20分だ。
露草の家について、一直線にこの部屋を訪ねると、蘇芳や露草が口を開く前に、
「許可を出すまで話し掛けるな」
木路蝋がぴしゃりと言い放った。
それは有無を言わせぬ口調で、仕方なく露草と蘇芳は挨拶もせずに座している。
「なんなのさ、一体」
口の中でぶつくさ呟いて、露草がちらりと視線を投げた。
「あんた、今日は無駄骨に終わるんじゃない? 多分、当分このままだよ」
「露草こそ、先に着替えてきたらどうですか? 木路蝋さんが気付いたら呼びますから」
つられたように視線を落として、露草はため息をついて立ち上がる。
「母さんにも声かけてくるから。あんた、夕飯食べてきなよ」
「え? い、いいです。そんな」
「我に返るの待つつもりなら、その方が効率的だよ」
襖に手をかけて、露草は顔だけちらりと振り返った。
「蘇芳」
「はい?」
「抜け駆けしないでよ」
「はい」
微かに苦笑して、襖が閉じるのを眺めていた蘇芳は、それに合わせてひやりと部屋の温度が下がったことに気付く。
「言いたいことは、はっきりいってください」
「それは、お前だろ」
不意にひたりと捕らえられた視線を外して、蘇芳は唇を尖らせた。
「山吹さんに会いました」
「へえ。そうか」
「実験って何ですか? 夢獣って本当は何なんですか? 初めて説明された時は解りませんでしたけど、今なら解ります。貴方の説明はあやふやな所が多過ぎるんです」
「知って、どうする?」
「強くなります」
「まぁ、帽子一つ護れない護衛じゃ、役不足も良いところだからな」
びりっと背中に雷が落ちたような衝撃に、蘇芳は目を丸くして木路蝋を仰いだ。




