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露草の家へと向かいながら、蘇芳は隣を歩く露草の気配を感じていた。
並んで歩いているのに言葉はない。
それでも、一人で歩くよりは、蘇芳は露草が隣にいるこの空間が好きだった。
何も言わなくても、それは堅苦しい場所ではないからだ。
「蘇芳、言ったよね。僕は止めない」
「うん。ありがとう」
「だから、あんたも止めないでよね」
唐突に紡がれた言葉の意味が解らなかった。
反射的に振り返って、露草の顔を見た蘇芳は、背中を氷が滑り落ちていくような気がした。
「だ、駄目です!」
「あんたの静止は聞かないよ。言っただろ」
良くも悪くも、露草は表情が豊かだった。
直ぐ感情が表に出て、取り敢えず感情が高ぶるとつい怒ったような口調になる。
それが、蘇芳の知っている露草だった。
こんな風に、冷静な大人びた表情を蘇芳は知らない。
「どうしてですか。だって」
「理由なら簡単だよ。あんたが言ったんだ」
「え?」
「『強くなりたい』」
「露草が強くなる必要なんて、」
「ない訳ないだろ。夢獣に狙われてるのは僕で、僕にこそ自衛が必要なんだよ。解りきってることじゃない。薄氷を踏むような思いをして日々を過ごすのは、もう御免なんだよ」
だから、僕は強くなる。きっぱりと告げた露草に、蘇芳はもう紡ぐ言葉をもたなかった。




