33/104
032
張り詰めていた気を解いて、蘇芳は大きく息をつく。
山吹に会うまでの、悲愴な意識はいつの間にか消えていた。
帽子の下で兎耳がぴくぴくと揺れる。
それはまるで鼻の効く猟犬のようで、今にもかみ砕く準備があるというように、蘇芳に存在を主張した。
今ならわかる。
先程まで蘇芳を取り巻いていたのは、木路蝋が良く雑魚と呼ぶレベルの夢獣達だ。
それが束になって、調度暗い穴を覗き込んでいた蘇芳の背中を押した。
山吹にきっかけを貰わなければ、もしかしたら
「(兎さんでも、敵わない?)」
蘇芳自身は祓う力を持たない。
それがこんな風に、弱点になるとは思わなかった。
先ほどまでの思考を振り切るように立ち上がって、蘇芳は被ったままの帽子を握りしめる。
どんな理由であれ、露草を護りたいという意思は変わらない。
それならば、最善を尽くすべきだ。
遠くで守れずに後悔するよりは、近くにいる方が良い。
携帯電話を取り上げて、蘇芳はリダイヤルで相手にかけた。
『はい、』
「もしもし、蘇芳です」
『用件は?』
「強くなりたいです」
『はぁ?』
「強くなりたいんです」
電話口で相手が困ったように髪をかくのが解る。
けれど、結局は否定しないことも解っているのだ。
『良いけど、ほどほどにしなよ』
呆れたような声が、耳を擽った。




