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あいろこいろ  作者: カラクリカラクリ
本編
31/104

030


「蘇芳さーん? 大丈夫ー?」


不意に頭の上から降ってきた眠そうな声は、蘇芳を正気に戻すのには十分だった。


「あーぁ、集られてるー。重そーだねぇ」


塵でも払うように周囲をぱたぱたと巡る掌は小さい。

顔を上げた蘇芳を見て、山吹が相変わらず眠そうな顔でへにょへにょと笑った。


「や、まぶきさん。どうして」

「えー? ずっとここで寝てたよ? 気づいたら、蘇芳さんがへばってたから、どーしたのかなーって」


ちょこんと視線を合わせるようにしゃがみ込んで、山吹は背負っていた鞄を下ろして、ペットボトルを差し出す。


「飲んでいーよ。あとねぇ、確か此処に、」


ごそごそと鞄を弄って、山吹は蘇芳の前にお菓子を並べた。


「食べたいの、ある?」

「いえ、その」

「睡眠と食欲は、我慢しないほーが良いよ。いくらきゅーちに陥ってもね」


それはへにょへにょと相変わらずな笑いなのに、その瞳の奥にきらりと光った意志は、ふと蘇芳を我に返す。


「窮地、ですか」

「うん。元気ない時は、必須だよー」

「ありがとうございます」

「お勧めの、これあげるね」


蘇芳の手にチョコレートを押しつけると、山吹はのんびりと立ち上がった。鞄を背負い直して、思い出したように口を開く。


「今日は、露草君と一緒じゃないんだねー」

「慣れて来たら、別行動もしますよ」

「ふうん。露草君、蘇芳さんが来てから楽しそーで、この間の時、良かったなぁって思ったんだー」

「楽しそう、ですか」

「うん。夏休み前まではさー、つまんなそーに学校来てたんだよねー」


欠伸を零して、山吹は驚く蘇芳を見下ろしてへにゃりと笑った。


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