029*
不意に流れてきた風に、木路蝋はふと庭へと視線を投げる。
縁側に続く襖はすっかり開け放たれているが、まだ寒いと身を震わせるほどではない。
空は良く晴れていて、流れる雲も穏やかだ。
庭木はほんのりと紅葉して、秋桜や薄がふわふわと揺れている。
どこからどうみても、秋というのにふさわしい過ごしやすい午後の陽気である。
けれど、
「嵐の前の、なんとやらか?」
背筋をひと撫でするような嫌な気配に、木路蝋は珍しく一人ごちた。
「入るけど、良い?」
「あぁ」
廊下側の襖越しにかけられた声に、木路蝋は庭から意識を移す。
「用件あるけど、先に郵便」
差し出された封書に視線を落として、木路蝋は知らず眉を顰めた。
「これ、か?」
「うん?」
「いや。全く正しい。第六感も馬鹿にできないな」
「どうでもいいけど、何の話?」
それに答えず封を開くと、落ちたのは一枚の便箋と写真。
「良く解らないけど、後手に回った?」
「らしいな」
忌々しげに舌打ちを零して、木路蝋は手にした封筒をひっくり返した。
宛先も差出人もない。
ただほんの微かに、夢獣の気配がする。
「因みに聞くけど、怒ってる?」
「いや」
「其れならいいけど、まだかかるよ」
「だろうな」
溜息をついてがりがりと髪をかくと、木路蝋はその封筒を押しつける。
「あいつに、調べさせとけ」
「やっても良いけど、直ぐは無理だね」
「解ってる」
廊下側の襖が閉まるのを耳だけで聞きながら、木路蝋は便箋と写真を見下ろした。
便箋に並ぶ文字は、滑るように達筆だ。
見覚えもなければ、身に覚えもない。
けれど相手は、こちらを正確に把握しているという事だろう。
『目を離すな』
「望みはなんだ?」
帽子を被っていない蘇芳を映した写真を取り上げて、木路蝋は目を細めた。




