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「番長を名乗りたいなら、熨斗つけてくれてやる」
「いりません」
きっぱりあっさり切り捨てると、鈍は僅かに片目を眇めた。
「それ以外に買ってやる理由がない」
「恨みを買った覚えはないんですか」
「ない」
躊躇う様子もない答えに蘇芳は呆気にとられてまたたく。
「ないんですか?」
「当たり前だ。戦争してるわけでもない」
「はい?」
言葉の意味が解らずに眉を顰めると、鈍は面倒くさそうにふぁと欠伸を零した。
「正当防衛だ」
「それには賛同しかねますが」
にっこりと笑って、蘇芳は構えもなく鈍との距離を詰める。
けれど意外に俊敏な動きで距離を取られてしまった。
「どうして逃げるんですか」
「正当防衛の理由、作らせるのは面倒だ」
「だったら、買ってください。喧嘩」
ふっと身を沈めて、蘇芳が繰り出した蹴りを軽くいなして、鈍は嫌そうにため息をつく。
「めんどくせぇ」
「ちょ、てめぇ鈍さんに何を!」
不意に割り込んだ彼に、蘇芳はげんなりしてけれどそのまま飛んできた拳を避けた。
僅かに驚いたような顔をした元番長が、表情を引き締めて構えを取る。
「てめぇ、出来るな」
「邪魔しないでくださいよ」
むぅと膨れてみせた蘇芳の拳をいなしつつ、元番長は不機嫌に応戦してきた。
「はぁ!? 俺を差し置いて鈍さんに喧嘩売ろうなんていい度胸段だよ!」
「知りませんよ、そんなの。部下じゃないって言ったじゃないですか」
「こら! 女の子相手に何やってるんだい!」
「おい、風紀を乱してんなよ」
不意に降って湧いた声に、蘇芳は頭を抱えたくなる。
これは明らかに厄介だ。
それぞれの間で微妙に冷えた空気を悟って、蘇芳は引き際を悟った。
仕方ないが、これでは無理だろう。
ちらりと、近寄ってくる会長と風紀委員長に一瞥をくれた蘇芳は、だからその一瞬に気を抜いたのだ。
「っ」
頭の上すれすれを通り抜けた拳とそれが起こした風が、蘇芳の帽子を引っさらった。




