025
あの居心地の悪い宴会の後から、露草の様子がおかしい。
何処か上の空で、ふわふわと歩いているかと思えば、唐突にため息をついたりする。
かく言う蘇芳も、本調子とは言い難かった。
けれど、そんな時に限って目当ての人が見つかるもので、厠から出た所で、蘇芳の目は中庭を一人で歩く鈍の姿を捉える。
次の瞬間には反射的に駆け出していた。
彼のことは、あの下っ端、もとい、元番長の話を聞く前から気にはなっていた。
『夢獣を探すなら、注目を集める人間を当たれ』というのが木路蝋の持論である。
確かにそれは一理あって、特に夢獣を使う側の人間は得た力を使わずにはいられない。
憑かれた人間も、山吹のようによく寝るようになったり、精神的混乱を来たしたりして、人目を引く。
だから、生徒会長や番長なんて存在はいの一番に確認しておきたい存在だ。
ちょっと変わっている風紀委員長も候補の一端には名前があがっているが、順位は低い。
中庭の角を鈍を追い掛けて曲がるなり、蘇芳は反射的に急ブレーキをかける。
それでも走ってきた勢いは殺せなくて、訝しげに立ち止まっていた鈍の背中に先日の様に激突した。
「ったたた、」
「ぶつかってきたのはそっちだ」
素っ気なく振り返った鈍に、蘇芳は眉を跳ね上げる。
「ついて来てるの、気づいてましたよね?」
「ああ」
「それなら、どうして止まるんですか」
「追われたら止まる。普通だ」
「普通、逃げると思います」
「逃げる? 必要あるか?」
「面倒なことは嫌いだと思ってました」
「今後付き纏われる面倒を考えれば、今終わらせる方が良い。簡単な方式だ」
淡々とした調子に、思わずため息を零して蘇芳はこちらを向き直った鈍の顔を見上げた。
「今後も付き纏うとは限らないです」
「不正直な回答だ。理由もなく付き纏う意味がない」
「それなら、貴方は正直だと?」
「ああ」
「番長さん」
「名乗ったことはない。売られた喧嘩を買っただけだ」
「それなら、売ったら買ってくれますよね?」
僅かに表情を変えた鈍に、蘇芳は軽く肩を竦める。
「それとも、女相手の喧嘩は買えないとか、不平等なこと言いますか?」
「不平等、か? 身体の造りが違う以上、その時点で不平等だ」
「身体の小さい、力が弱い男性も沢山いると思いますよ」
「理由に納得できるなら、買っても良い」
面倒くさそうに零れた言葉に、蘇芳が眉を顰めると、鈍はかりかりと髪をかいた。




