017
対面でお弁当を突く露草をちらりと見て、蘇芳は小さく溜息を零す。
午前中の二コマ目の授業は開始すれすれに飛び込んで、露草の隣の席に座ったが、その時から既に露草は不機嫌オーラを纏っていた。
元々、真面目気質で、そのうえ本人は否定するがなかなかの世話焼きだ。
転校生という世間知らずの世話係として、授業をサボる等というのは言語道断に違いない。
「(木路蝋さんが、うまく説明してくれたら楽なんですけど)」
面倒なことは絶対にやってくれないとは解っているが、つい文句も言いたくなる。
昼間働けと言ったのは、他でもない彼なのだ。
「ちょっと、昼ご飯がまずくなるから辛気臭い顔しないでよ」
溜息をつきかけた蘇芳は、飛んできた露草の言葉にはっと顔をあげる。
「辛気臭い顔してます?」
「してるよ」
「すみません」
「謝るくらいなら、少しは楽しい話でもしなよ」
少し柔らかくなった不機嫌オーラに、蘇芳はほっと息をついた。
「いつにない無茶振りですね、露草」
「はぁ?別に、僕は」
「じゃあ、面白い話します」
「そういう話に限って、面白くないよね。あんた」
「それじゃあ、どうしろっていうんですか」
むぅと眉を顰めると、露草は不意に蘇芳の弁当箱に視線を落として、親の敵にでも出会ったような顔をする。
視線の先に気付いて、蘇芳はあぁと頷いてそれを箸で摘んだ。
「相変わらず、嫌いなんですか?」
「食べる人間の気がしれないね」
「美味しいと思いますよ」
「有り得ないんだけど」
露草は昔から茸が嫌いだ。
種類に構わず、全て。
だから、蘇芳がぱくりと口に入れた占地に嫌そうに目を反らす。
「茸嫌いだと、大きくなれないらしいですよ」
「すぐ解るような嘘つくの止めなよ」
呆れたように肩を竦めた露草は、もういつもの露草で、蘇芳は解らないように息をついた。
露草の機嫌を損ねたくはないが、露草の護衛を全うするためにも、木路蝋の依頼はさっさと検討をつけたい所だ。
「(はったりでも、かけてみましょうか)」
ある人物を思い浮かべて、蘇芳は新たに摘んだ占地を口に入れた。




