015
「だいだいね、萌葱! 君は最初から、」
「は? 勝手に勘違いしたのはお前の方だろ。そもそも、手の甲に口づけるとか、何処の国の人間だよ」
「あぁ! 思い出したくないことを思い出させるんじゃない!」
不機嫌を露わにする会長に、美人は呆れたように肩を竦める。
「それでも、不当手段で風紀委員長になったことは間違いないじゃないか!」
「不当? 冗談じゃない。生徒会長のくせに校則も知らないのか? 生徒は制服着用が義務とは書いてあるけどな。どっちを着ろとは書いてない」
「萌葱! 常識を鑑みて口を開かないか! 少し考えれば解るだろう」
白熱してきた議論に、蘇芳は両方を交互に見てから徐ろに手を上げた。
「あの、帰っても良いですか?」
「え?」
「ん?」
水を差されて、ぴたりと口を噤んだ二人は其処に蘇芳がいたことに漸く思い至ったようだった。
「あ、やあ。すまなかったね、お嬢さん。見苦しいところを」
「そうだった。こんなやつに惚れてるなんて、勘違いして悪かったな」
「あ、いえ」
双方からそれぞれ詫びを口にされて、蘇芳は慌てて首を振った。
もとはと言えば、会長をつけてきたという負い目もある。
「あぁ。悪い。結局名乗ってもいないよな。萌葱、な。風紀委員長をやってるから、何かあれば遠慮なく言えよ。あぁ、転校したてなら、こいつの名前も知らないんじゃないのか?」
くいと萌葱に顎で指された会長は、心外だというように鼻を鳴らした。
「失礼なことを言うな。私はつい先ほど会った時にきちんと名乗っている。可愛い女性に名乗らないなんて愚行は侵すものか」
「へぇ? じゃあ、名前も聞いたのか」
「う。それは、」
うっと言葉につまった会長に、萌葱が心底呆れたように肩を竦める。
「えと、蘇芳と言います」
「おぉ。可愛い名前だね」
「ありがとうございます」
「なぁ、お前さ。帽子取った方が可愛い気がするんだけど、それ、外したくないのか?」
至極あっさりした口調でそう言った萌葱に、蘇芳は笑顔を張り付けたままぴたりと固まった。
会長には、なんとなく一昔前の貴族のような雰囲気があってさらりと気障な台詞を口にしても違和感を感じない。
けれど、
「なんだよ?」
「萌葱さん、それ口説き文句みたいですよ」
「は?」
女子生徒の服を着ているし、その上物凄く美人なのに、一度男だと認識してしまえば、その口調も態度も男にしか見えないから不思議だ。
しかも、会長と違って無自覚な言葉の効果が高い。
「萌葱さん、男だったらモテそうですよね」
「いや、蘇芳君。萌葱は男だからね」
ぽつりと呟いた蘇芳に、会長が苦笑した。




