014
「鴇先輩が、女の子みんなに優しいのは解ってるんです。あたしだけじゃないってことも。でも、」
「小さくて可愛いから、女の子は皆好きだよ。だから勿論、君も好きだ。でも残念だけど、特別にはならない。だから、ごめんね」
穏やかに、けれどばっさりと拒絶されて、少女は耐え切れなくなったようにばっと駆け出した。
「毎度ながら良くやるよな」
反対側に消えていく少女を眺めながら、美人が呆れたように呟く。
「どうして、あんな奴に惚れるかな。珈琲飲んで酔って浮かれ騒ぐような奴だってのに」
「え、そうなんですか?」
「そ。変な奴なんだよ。お前もさ、余計なお世話かもしれないけどな。もっと周り見てみたらどうだ?」
漸く美人の勘違いに気付いて、蘇芳はなるほどと頷いた。
どうやら、会長に恋い焦がれていると思われているらしい。
「忠告ありがとうございます。でも、」
「はぁ。解ったよ。決心は固いんだな。じゃあ行って来い」
違うんです。と続ける前に、早合点した美人が思い切り蘇芳の背中を押し出した。
「わっ」
取れそうになる帽子を押さえた蘇芳は、勢いこちらに歩いてきた会長の前に飛び出す形になる。
反射的にだろうが手を出してくれた会長が驚いたようにぱちぱちと瞬いた。
「さっきも会ったね、お嬢さん。私に何か用かな?」
「あ、いえ。用はないんですが」
ちらりと蘇芳が背後を見遣ると、釣られたように会長が視線を追って、ばっちりと美人と目が合う。
あれだけの美人だ。
会長からどんな歯が浮くような台詞が零れるのかと溜息をつくと、予想に反して、会長は不機嫌そうに溜息をついた。
「何してるんだ、萌葱」
「なにも。お前に用があるのは、そっちだ」
「彼女はないと言っているが?」
「は? 何言って」
「すみません。違うんです。転校してきたばかりで、何処に何があるか確認しながら、歩き回っていて此処に来てしまっただけで、会長に用があった訳では」
慌てて言うと、美人はキョトンと目を丸くしてから、呆れたように肩を竦める。
「なんだよ。追っかけにしては様子がおかしいと思ったんだ。それならそうと先に」
「大方、君が早合点したんだろう。彼女のせいにするんじゃない」
「あの、美人さんは会長の彼女さんですか?」
美人が、会長が珈琲を飲んで酔う、なんていう変わった情報を知っていたこと。
また、あまりに会長の対応が他の女生徒に対するものと180度違う上に、この上なく取り繕わないように見えたことを鑑みて、蘇芳が不思議そうに口を挟むと、途端に会長が傍目に解るくらいはっきりと顔色を変えた。
「冗談ではないよ! どうして私が、こんな小さくも可愛くもない、よりにもよって男と付き合わないといけないんだい」
「え? 男?」
明らかに女子生徒の制服を着た美人は面倒臭そうに髪をはらう。
「聞き捨てならないな。誰が可愛くないって?」
「可愛くないに決まってるじゃないか。君が女子生徒でない時点で可愛くないよ! そもそも、いい加減、男子の制服を着なさい!」
「こっちの方が似合うんだから、文句を言われたくないね。だいたい、生徒会長が何にでも、口を挟むのが横暴の極みだってのが解らないのかよ?」
「何を言うんだ。風紀委員長がそんな格好で、威厳も何もないって言ってるのが解らないのかい?」
蘇芳を間に始まった良く解らない応酬に、双方をちらちらと眺めて蘇芳は小さく目を細めた。
どうやら風紀委員長らしい女装の美人と生徒会長はあまり仲がよろしくないらしい。




