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学校生活の中で面倒なものを上げるとすれば、多分多くが『朝礼』と答えるような気がする。
かれこれ30分近く、校長は最近始めたというガーデニングの成果について長々と力を込めて話し続けている。
欠伸を噛み殺す生徒、こっそりと携帯電話を弄る生徒、中には大胆にも化粧直しをしている生徒もいて、明らかに誰もが飽きていた。
蘇芳が興味を覚えて端に居並ぶ教員を眺めやれば、そちらも同じような様子だった。
けれど、嬉々として話し続ける校長には、そんな観衆の感情は読み取れないものらしい。
終わる様子のない話は、一層熱を帯びたようだった。
「という訳です」
「それは。是非一度拝見したいですね」
その声は、本当に滑らかに話の間に滑り込んだ。
生徒や教員の注目を集める中で、その青年は微かに笑う。
「きっと素晴らしいお庭なんでしょうね」
「自分で言うのもなんだが、自慢の庭だよ」
青年が口を挟んだことに全く不快感を覚えていない口調でそう言って、校長は我に返ったように時計を見た。
「あぁ。授業が始まってしまうね。私の話は此処までにしよう」
唐突な話の流れに、司会を務める教員が慌ててマイクを掴む。
「それでは本日の朝礼は終了です。一コマ目の授業は5分遅れで始めます。終了時間は通常通りとします。以上」
ばらばらと移動し始める周りで、安堵の声が漏れ聞こえた。
「いつもながら、話長すぎだよ」
「さっすが、会長」
「校長先生の話、本当眠くなる」
「助かったね」
「先生も止めてくれればいいのにね」
「会長、勇気あるよね」
教室に向かう露草に追いついて、蘇芳は意識を惹く様に手を上げる。
「質問です。露草」
「なに?」
「さっきのは、誰ですか?」
「さっきのって、あの人のこと?」
嫌そうに露草が示したのは、人の群がる先。
同じ光景を何処かで目にしたような気がして、蘇芳は瞬いた。
「もしかして、あの人が生徒会長さん、ですか?」
そう、先日食堂で、同じように群がる人を見たのだ。
その声が聞こえた訳でもないだろうが、その深い双眸が蘇芳を捉えた。
いや、そんな気がしただけだ。
目が合ったと思った瞬間、彼はにっこり笑う。
けれどすぐに人の波の中に呑まれて、彼の顔は見えなくなった。
「人望がありそうですね」
「さあね」
「露草、嫌いなんですか?」
「別に本人が嫌いな訳じゃないけど、取り巻きがうるさいから好きじゃない」
「そうですか」
「なに、興味あるの?」
「はい。面白そうな人です」
あっさり頷くと、露草が嫌そうに目を細める。
「物好き。僕は関わりたくないからね」
何処か不機嫌な様子でそう言ってずんずん歩いていく露草を慌てて追いかけようとすると、不意に揺れた人波に体を押された。
「っ」
バランスを崩した身体よりも、ずり落ちそうになった帽子を反射的に庇うと、横からきた人に思い切りぶつかる。
「おい! お前どこ見て歩いてんだ!」
ぶつかった本人を見上げる前に、横合いから顔を出した人物が蘇芳を威嚇するように唸った。
その見覚えのある顔に、蘇芳は瞬く。
「おい! さっさと、」
「朝から喚くな。うるせぇ」
無言を恐れと受け取ったのか、再度脅す様に口を開こうとした彼の言葉は、蘇芳の上から降ってきた言葉に遮られた。
つられるように顔を上げた蘇芳は、けだるげな青年と見覚えのある顔を交互に眺めて納得する。
成程、これが。
「す、すんません。鈍さん」
食堂で席取りをしていた下っ端が、焦ったように青年に頭を下げた。




