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あいろこいろ  作者: カラクリカラクリ
本編
101/104

100*

宵闇の風が、渡り廊下を歩く露草のマフラーを揺らしていく。

短く切り揃えた髪との隙間に入り込んだ風に露草は首を竦めた。

時折楽しそうに笑いながら追い抜いていく学生の波が、あの日失われた記憶を色濃くしている。


『夢獣は消えた。この家ももう、過去に縛られることもない』


木路蝋はそう宣言して、さっさと当主の座を下りると、家を出ていった。

もう夜を畏れることもなければ、誰かに護られることもない。

望んだ日常の筈なのに、ぽっかりと空いた穴を、露草は埋められずにいる。


「あ、露草君だよ。山吹ちゃん」

「ほんとだ。ばいばーい」


ひらひらと手を降る二人組に、露草は微かに手を振り返した。


「気をつけて帰りなよ、伽羅。山吹」

「うん。露草君もね」


彼女達の記憶は高校入学当時からすっぽりと抜け落ちていて、夢獣に関するものは一欠片も残らなかったらしい。

二人に関しては、木路蝋から様子を見るように言われたが、特に問題はなさそうだった。

去っていく二人を見送っていると、不意に肩に重みがかかる。


「どうした」

「大丈夫かい?」


肩を叩いたのは鈍で、その奥から顔を出した鴇に、露草は小さく笑った。


「大丈夫ですよ。鈍先輩、会長」

「そうか」

「露草君、何度も言うが、私はもう会長ではなくてだね」

「じゃあ、元会長?」

「素直に、鴇先輩で良いと思うのだけどね」


あの後、鈍と鴇も、打ち身が酷くて病院には行ったものの二三日で退院してきて、すぐに顔を出してくれたのだ。

二人の記憶の中には、露草の穴を埋める少女のことが微かに残っていたが、それでもそれもいつの間にか口には昇らなくなっていった。


「気をつけて帰るのだよ」

「じゃあな」


二人が行ってしまうと、何故か急に寒さが身に染みて、露草は首を竦める。

家路を急ぎながら、露草がふと顔を上げると三日月が浮かんでいた。


『あいつはお前だけは、どうしても護りたかったんだろうよ』


去り際の木路蝋の言葉が不意に蘇って、露草は足を止める。

悲願を果して世界を護った一人の少女。

彼女の記憶を持つのは、あの時渦中にいたものだけだ。

露草と木路蝋を除く一族のものから、彼女の存在した過去は消え、学園からも彼女の痕跡は失われた。

そこには、予め誰もいなかったというように。

けれど、露草は知っている。

死地に陥ってなお、前を向いた強い光を。


「 」


こぼれ落ちた名を、抱きしめて露草は前を向く。

立ち止まることはできない。

彼女はそんなことは望まないだろう。

覚えている限り、彼女は確かに此処にいたのだ。

だから、忘れてなどやるものか。

風に揺れたマフラーを払って露草は歩き出した。

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