009
短いくせっ毛がふわふわと風に揺れていた。
蘇芳の少し前に、俯せてぐっすり寝ている少女がいる。
「そこ、起こしてやれ」
少しばかり呆れたように教員が教卓を叩いた。
お昼前のコマが始まって、まだ10分も経っていないが、記憶を辿れば初めからそうだった気もするから不思議だ。
彼女は、近くの女子生徒に揺り起こされて、慌てて教員にぺこんと頭をさげる。
「大丈夫か?」
「すみません」
「なるべく頑張れ」
蘇芳がその様子を眺めていると、不意に露草が袖を引いた。
「ねぇ、あんたあの子に何か視えるの?」
言葉の意味が解らずに蘇芳が眉を顰めると、露草は僅かに目を伏せる。
「この間の授業の時も見てただろ」
「そういえば、先日も寝ていましたね」
記憶の中に彼女を見つけて、蘇芳は目をしばたいた。
「露草、知り合いですか?」
「名前くらいなら知ってるけど」
「では、授業が終わったら突撃ですね」
「はぁ?どうしてそうなる訳?」
「露草、気になるんじゃないんですか?彼女が夢獣に憑かれてるのか」
言葉につまった露草に、蘇芳はにっこり笑う。
「話を聞くくらい大丈夫ですよ」
授業中の彼女は相変わらず寝たり起きたりを繰り返していて、漸く授業が終わった時には、ぼんやりとしていてすぐには立ち上がらなかった。
周りが購買や食堂に向かう喧騒の中で、彼女の周りだけがゆっくりと流れているように見える。
「山吹」
だから、露草の声にも初めは気づかなかったらしい。
「ちょっと、山吹。聞いてるわけ?」
「ふえ? あ、露草君。おはよーう」
「おはようじゃないよ。もう、昼なんだけど」
「そっか。そうだね」
へにょへにょと笑う山吹を露草の後ろから眺めて、蘇芳は僅かに目を細めた。
「あんた、いつも眠そうだよね」
「なーんか、そういう体質みたいでね。お医者さんも匙を投げちゃったから、詳しいことは解んないけど」
「夢、見ますか?」
唐突に蘇芳が口を挟むと、山吹はきょとんと顔をあげる。
「え? なーに?」
「夢は見ませんか?」
鳩が豆鉄砲でも喰らったみたいに面食らった顔をして、山吹は暫くその言葉を咀嚼していたが、何かに思い至ったように露草を見た。
「良くわかんないけど、露草君が出てきたかなー。確か」
「はぁ?」
「でも良く覚えてないし。じゃあ、見てないってことにしよーか?」
へにゃへにゃと笑う山吹に、蘇芳はにっこり笑って鞄の中から一枚の名刺を取り出す。
「なーに、これ?」
「睡眠専門のお医者さんです。山吹さんみたいな患者さんの治療実績もありますから、是非連絡して見てください」
「そーなの?」
「露草の親戚なので、身元は保障しますよ」
「ふうん」
「いつ作ったわけ? あんな名刺」
眠そうな目でくるくると木路蝋の名刺を眺める山吹に聞こえないくらい小声で、露草が囁く。
「パソコンで、ちょちょいです。力をお持ちですし、木路蝋さんも働いていただかないと」
「抜目ないね、あんた」
名刺を見遣って、露草が呆れたようにため息をついた。




