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夏恋  作者: 浅色
9/10

夏恋9


 それから色々南自身の事を語ってくれた。

 2年前までは至って健康だったが、突然身体の調子が悪くなり、病院で検査したところ末期の癌だと診断されたこと。

 そのせいで病院暮らしを続けていたこと。

 今年の夏は体調が良かったので外出を許可され、あの山にいたこと。

 元々は友花と同じ都会育ちだが、小さい頃から自然は好きだったので雑学は多いとのこと。


「もうホタルもいないのかなと思ってたんだけど、あんなにたくさんいたんだね」

「うん」


 もう余命幾月もないというのに、どうしてこの人はこんなに笑っていられるのだろう。

 そう思うとどんどん胸が締め付けられる気がした。

 彼の笑顔は好き。

 でも今はとても、切なくなる。

 友花は無性に泣きたい気持ちを必死に抑えていた。


 口数の少ない友花の様子を、少しだけ目を細めて眺め、また視線を病院の壁の方へ向けて南は言う。


「末期癌だって、親から聞かされた時さ」


 『癌』という言葉に反応して顔を上げる。


「正直なところ、やっぱり怖かったね。………あ、でも最初のうちは何だか実感なかったもんだから戸惑ってたけど」


 やはり少し苦笑いで話をする。


「日が経つにつれて、ずっと病院のベッドの上だから嫌でも考えちゃうんだよね。もうすぐ死んじゃうのかなって。そうするとやっぱり、怖くなっていくんだ」

「南さん…」

「その思いも吹っ切ろうと思って、体調が良いって言われたから必死に先生にお願いしたんだ。渋々OKだしてくれてね。それで」


 友花のほうを見ると、今にも泣きだしそうだった。


「君と出会った」


 南が作った精一杯の笑顔だった。


「うん」

 

 その笑顔に応えたかった。

 その人が好きだった。

 胸が、苦しめられる想いが溢れそうだった。

 笑顔の主は続ける。


「海にも…行きたいな」

「海?」

「うん、海」

「・・・また、行けるよ!」


 そうだね、そう言ってすぐに気を失い、南は再び集中治療室へ運ばれた。


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