夏恋9
それから色々南自身の事を語ってくれた。
2年前までは至って健康だったが、突然身体の調子が悪くなり、病院で検査したところ末期の癌だと診断されたこと。
そのせいで病院暮らしを続けていたこと。
今年の夏は体調が良かったので外出を許可され、あの山にいたこと。
元々は友花と同じ都会育ちだが、小さい頃から自然は好きだったので雑学は多いとのこと。
「もうホタルもいないのかなと思ってたんだけど、あんなにたくさんいたんだね」
「うん」
もう余命幾月もないというのに、どうしてこの人はこんなに笑っていられるのだろう。
そう思うとどんどん胸が締め付けられる気がした。
彼の笑顔は好き。
でも今はとても、切なくなる。
友花は無性に泣きたい気持ちを必死に抑えていた。
口数の少ない友花の様子を、少しだけ目を細めて眺め、また視線を病院の壁の方へ向けて南は言う。
「末期癌だって、親から聞かされた時さ」
『癌』という言葉に反応して顔を上げる。
「正直なところ、やっぱり怖かったね。………あ、でも最初のうちは何だか実感なかったもんだから戸惑ってたけど」
やはり少し苦笑いで話をする。
「日が経つにつれて、ずっと病院のベッドの上だから嫌でも考えちゃうんだよね。もうすぐ死んじゃうのかなって。そうするとやっぱり、怖くなっていくんだ」
「南さん…」
「その思いも吹っ切ろうと思って、体調が良いって言われたから必死に先生にお願いしたんだ。渋々OKだしてくれてね。それで」
友花のほうを見ると、今にも泣きだしそうだった。
「君と出会った」
南が作った精一杯の笑顔だった。
「うん」
その笑顔に応えたかった。
その人が好きだった。
胸が、苦しめられる想いが溢れそうだった。
笑顔の主は続ける。
「海にも…行きたいな」
「海?」
「うん、海」
「・・・また、行けるよ!」
そうだね、そう言ってすぐに気を失い、南は再び集中治療室へ運ばれた。