夏恋4
すみません、書き直しました…。前のよりもだいぶ、感情移入しやすくなったと思います(?)
あれから二日。
またあの人に会えるかもしれないと思って夕方に蛍の河原へ通っていた。
しかし、その人は現れず、あの時見た蛍も見かけなくなった。
「夢見がちな少女…か」
自嘲気味に笑ってみる。
友花は夕方の川の底をのぞき込んだ。
長い髪をピンで留めた女が映っている。
「…不細工な顔」
川面に映る自分を見てそう言う。
何となく子供扱いされてたのは気に入らなかったけど、話をしていて妙に楽しかった。
夜の影のせいであまり顔は覚えてないが、蛍の光で神秘的にも見えた。
自分でも分かってる。
どうせ一時の空想に過ぎないことくらい。
「夢の空を歩く君の そばにいるガラスの靴は 離れられないだけなんだ〜」
昔聞いた歌のフレーズを口ずさむ。
もうなんていう歌かも忘れた。
歌っている人ですら覚えてない。
でも、それが今の気分だった。
「少女は川原佇み 空虚を想う ここが命の始まりの場所とも知らず 君は唄う」
ふと背後から詩が聞こえた。
びっくりして振り返ると、こないだの人が空を見上げていた。
「あ…こんにちは」
「こんにちは。また会ったね」
軽く挨拶して南は横に座った。
その距離が微妙に友花には恥ずかしかった。
「聞いて…ました?」
「うん、いい声だね」
「…!!」
南は笑ってみせたが、友花は自分が赤面してるんじゃないかと思うくらい体が熱かった。
(はずかし…)
必死でごまかそうと話題を振る。
「あ…命の始まりの場所?」
「あ〜…、うん〜と…あまり深く考えないで」
今度は苦笑い。
「う、うん」
「友花ちゃん、だったよね?」
「はい…?」
「よくここに来るの?」
言われてちょっとドキッとした。
目の前の人に会えるかもしれないって思って来たなんて言えない。
「あ、うん…。時々」
内心の動揺を隠そうと必死で笑顔を作った。
「へぇ〜、そうなんだ。僕はこないだの会った夜、あの日に来たばっかりなんだ」
「あ、私も」
「え?」
「私もその日にこっちに来て、おばあちゃんの実家がこっちだから」
友花は、南がだいぶ前からいたのかと思った。
意外な接点を見つけられて少しうれしかった。
「そっか、おばあさんがいるのかぁ。夏休み中ずっとこっちに?」
「うん。ずっと」
「1ヶ月も友達と会えなくて寂しくない?」
「いつものことだから」
そう言って立ち上がって川面を見た。
「それに、今は誰とも会いたくなかったから」
二人の間を夏の風が通りすぎる。
河原の風はひんやりとして心地よい。
「そっか、ごめんね」
「あ、違うんです!南さんは違うんです!…その、友達に会いたくなかったっていうか」
立ち去ろうとしてたところを、慌てて友花が止めた。
初対面に近い南に誤解されたくなかった。
「あ、うん。…そゆときってあるよね。スランプになってたり、周りのごちゃごちゃしたことがやになったり、好きな人にフられたり」
「私、ついこないだフられたんです」
「…え?」
話題を変えようとしてただけだったのに、いきなり爆弾を引いてしまった。
ともあれ、南は気まずい気分になった。
謝ろうとしたら、友花が先に口を開いた。
「あ、大丈夫ですよ。南さんは気にしないで」
「あ、うん…」
そう言われては黙るしかなかった。
彼女なりの配慮だろう。
「彼とは、2ヶ月付き合ってました。優しくて、大好きでした。でも…」
そう言って、友花は川岸のぎりぎりまで来て、しゃがみ込んだ。
「彼…、浮気してたんです。ファミレスで別の女の子とキスしてるの見ちゃって、問いつめたら…」
「…」
「そういう堅苦しいのウザいって言われて、お前と一緒にいると息苦しいって言われて、逆ギレされて、別れちゃいました」
ぴちゃん。
見ると、川に波紋が広がっていた。
友花が川に石を投げ込んでいた。
彼女は立ち上がると、川に向かって急に大声で叫んだ。
「ばかやろ〜〜〜〜!」
振り返った友花の顔は笑っていた。
「あ〜、すっきりした。やな男っているもんだね」
笑顔で南の隣に座った。
南にはその顔が強がりだと分かった。
「なんであんなやつ好きになっちゃったのかな〜。私ってばかだね〜」
友花は背伸びをして背中から後ろに倒れ込む。
ごつごつした石の感触があったけど、特別気にはならなかった。
服が汚れるのも気にならなかった。
「はぁ〜…、なんでだろ」
オレンジ色の空が自分の心を映してるようにも思えた。
南は何も言わずに、そんな友花の顔を見てる、優しいような、悲しいような表情で。
「…南さん?」
その顔に違和感を感じたのは何故だろう。
不思議な違和感だった。
でも悪いものじゃない。むしろ心地よかった。
「ほんとに彼のことが好きだったんだね」
言われて、心がズキンときた。
心の奥を見透かされたような気分になってた。
「実はそんなに好きじゃなかったのかも」
「自分を誤魔化しちゃだめだよ」
そう強がってみせたのも分かってるような表情、声のトーン、言葉。
自分の心の内が知れるのが怖くなって、頭に血が上る。
上体を起こして反論しようとした。
「そんなこと!」
「僕は…」
決して強くはない、大きくもない声に友花の言葉は中断された。
一呼吸置いて、南が口を開いた。
「僕は笑ったりしないよ。君と同じだから」
その言葉の意味が友花には分からなかった。
「君には、自分に正直でいてほしいから」
その南の言葉の意味はよく分からなかった。
でも、友花は流れ出る涙を止めようとしなかった。
いつの間に流れていたのだろう、気づいたら南に泣きついていた。
少しだけ、なぜ初対面の彼を探していたのか分かったような気がした。