夏恋3
「こんなキレイな虫、都会にはいないから…」
「そうだね、都会の虫は汚れてる…。虫も、空気も、人間も…」
その声が妙に悲しそうに聞こえたのはどうしてだろうか。
「あの…?」
一瞬だけこちらを向いて微笑んで、また蛍達の方を向いて、その人は言った。
「蛍っていうのはね、自然の川辺、それもとても綺麗な川でしか生きられない虫なんだ。籠に入れて都会に連れて帰っても、そう長くは生きられない。そして年々自然が減って…環境も悪くなってきているから蛍の数も減ってきている」
確かに年々自然は減っている。
しかし、見回せば山ばかりでとても自然が減少してるようには思えない。
「……こんなにキレイなのにね」
また声が悲しくなった。
「ま、そんなことはどうしょうもないからどうだって事じゃないけどね」
一変して声がさっきの調子に戻った。
少女はさっきのが聞き間違えたのかと耳を疑った。
「蛍ってこうやって手を伸ばすと寄って…ってあわああ」
「あっ!」
足下の石に躓いて、転びそうになったその人を助けようとしてこっちも躓いたため、二人とも川に落ちた。
「……」
「……」
一瞬何が起こったか分からず、お互いを見て呆然としていた。
数秒送れて、二人同時に笑い出した。
「ぷ」
「あははは!まさか君まで落ちてくるなんて、ははは」
「…はぁはぁ、だって、落ちそうだったからつい、あははは」
川の水は意外に浅かった。
足の膝くらいまでの水位で、夏の川の水がほどよく気持ちいい。
「もうずぶ濡れだなぁ…。っと」
と言って立ち上がり、まだ座り込んでる少女の方へ歩いてきた。
「大丈夫?」
そう言って手を差しだした。
「あ…、ありがとぅ…」
手を受け取り、立ち上がると目と目があった。
「君、名前は?」
「『三上…友花』」
「僕は香田 南。友花ちゃんはしばらくこの山にいるの?」
「私は、夏休み中はこっちにいるから…」
「そっか、僕もしばらくこっちにいるからまた会うかもね」
南が微笑むと、友花も自然と顔が笑みの形になった。
「って、うわぁ…すっかりずぶ濡れだな…濡れたままだと風邪引くからもう帰ったほうがいいよ」
「うん、そうする……クシュン!それじゃまたね、南さん!」
「あはは、お大事に〜」
苦笑を浮かべながら南は手を振った。