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夏恋  作者: 浅色
2/10

夏恋2

夏休み。

学生達には潤いの1ヶ月間。


「あつ〜…」


しかし、このだらしない格好で木の陰でうちわを扇いでる少女にはあまり良いものでは無いようだ。

この辺りの地域は熱がこもりやすく、夏はほとんど蒸し焼き状態になる。

白いワンピースで長い髪を麦わら帽子で覆っているその様子はまるで、一昔前のお嬢様のようでもあった。

実際には平凡な家の生まれで、たまたま祖父母の実家の田舎に帰っていたのである。



「虫嫌い…」


意に反して鳴り続ける蝉の声に、より一層暑く感じる。


「あいつも今頃、街で遊んでるんだろうなぁ…」


暑さとやかましさに顔をしかめながら、あいつのことを思った。

あいつとは、先日別れた彼氏のことで、相手方の不倫が原因だった。


心の底では別れたくない気持ちが少なからずあった。


初めて好きになった人だった。



そして、初めて裏切られた人だった。


「何やってんだろ…」




空は青い。



雲は白い。



「私もこんな澄んだ広大な心持ってたらなぁ」


自分の台詞に苦笑する。


「私は…」


昼間の木陰は思った以上に快適だった。

そのままうつらうつらしてきて、彼女の思考はそこで止まった。




み〜んみ〜んみんみんみんみん。



彼女が目を覚ましたときにはもう夕刻を少し過ぎたくらいだった。


「あ、山は暗くなるんだっけ…」


今まで暮らしていた都会と違って、暗くなると明かりが全くない。だから早めに帰ってこいと親に言われていたのだった。

もたれ掛かっていた木の幹から立ち上がり、軽くおしりをはたくと、麦わら帽子を押さえながら家の方へ走った。


幼い頃はよく来ていた祖父母の実家、今も変わらずの景色だけれど、小学校高学年からずっと都会で暮らしていた彼女には迷ってしまいそうなくらいだった。


「田舎で少女失踪…とか…シャレになんないし……」


一人ゴチる。

息を切らせながら、川沿いの丘を駆けていった。



もうすっかり暗くなり、辺りは夜が押し寄せていた。

しかし予想していた以上に、周りの風景が、山が、木々が、道が見えた。

星や月の光が照らしていてくれたためである。

蛍光灯育ちの彼女にはちょっとした感動でもあった。


ふと横を見ると、河原の辺りに光が集まっている。


(…なんだろう?)


興味深くそっと近づくと、その光は動いていた。





「キレイ…」


「蛍を見たことがない?」

「っ?!」


飛び交う光の中に、突然人が現れたように見えた。



実際には、始めからそこにいたのだが、彼女が光の方に夢中で気づかなかった。

相手は苦笑しながら言う。


「そんなに驚かなくても…」

「…あ、ごめん…なさい」


川辺に光の中で立っている目の前の見知らぬ人が、妙に幻想的に見えた。


「…ぁの…ホタルって…?」

「あははは、そうか!蛍を知らないんだ」


笑われたのが何となく不愉快でむすっとして睨みやった。


「あ〜…はは、ごめんごめん。蛍っていうのはね、そこの、これ、飛んでる光!」


声の主は楽しそうに続ける。


「まぁ虫の一種なんだけど、こうやって夜には光って飛ぶ夏の虫なんだよ。てっきり地元の子かと思ってたから、ごめんね?」

「あ、うん…いいですけど…」



睨み付けたのが分かったらしい。

こちら側からは相手の表情は逆光になってるらしく見えなかった。


「ホタル…」


月明かりの下の幻想的な光。

まるで吸い込まれそうな空間にいるようだった。


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