夏恋10
幾つもの冬を越し、春を過ぎ、また夏が訪れた。
セミはせわしく、夏を告げる。
今年もどうやら暑くなりそうだ。
それはいつもよりうるさいセミの声が示してくれる。
あれから私は高校を卒業して、彼と同じ専門学校へ行った。
特別、何か目標があったわけでもなく。
けれど、同じ時間を辿ってみたい、そんなロマンチストな考えは誰にも言えない。
「あれー?友花泳がないのー?」
「うんー、ちょっと描きたい絵があるからー」
砂浜の向こう側の友達に返す。
今日は学校の友人と海に泳ぎに来ていた。
パラソルの下で手帳サイズのスケッチブックを開く。
海に来たのは、泳ぐためでなく、海を描きたかったから。
手術は夜中かかった。
いつの間にか寝ていたらしく、目が覚めた頃には夜明け頃だった。
だがそこで目にしたのは、管に繋がれた南ではなく、もう目の開かない彼がそこにいた。
手術は成功した。けれど、1時間したらまた容態が急変し、そのまま息を引き取ったという。
どうしてという思いと、涙が止まらなかった。
南の両親から、一枚の絵を渡された。
あの子がもし死んだら渡してほしい、とそう告げられて。
そこに描かれていたのは、夜の山の景色に、川縁。そして幾つものホタルたち。
その絵は今は友花の部屋に飾ってある。
海を描く手を止め、一息いれる。
空を見上げると、日差しの眩しさに目を細める。
「私は、彼の生きた証を忘れない」
青々とした空は、どこまでも繋がっているようだった。
長い時間かかりましたが、なんとか終了しました。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
最後の方はやっつけ感たっぷりですが、また別の作品でお会いしましたらよろしくお願いします。