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夏恋
『香田 南』 18歳
市内の専門学校に通う若者。
去年の夏までは……。
「南ー!置いてくよーー?」
「はぁはぁ、ちょっと…待ってってばっ」
「はやくしろ〜〜〜」
南と一人の女性はそんな会話を交わしながら坂道を駆け上がる。
浴衣姿で二人は人混みから外れたところにいた。
「おっそいぞ〜」
「…美帆」
南は肩で息をしながら美帆と呼んだ女性を見上げる。
「ん?どしたの?」
「僕が体力無いの分かっててやってるだろ、…はぁはぁ、…ったくもう」
「あら、ばれちゃった」
隠しもせずチロッと舌を出して、笑う。
ひゅーん。
どかーーん!
唐突に、二人の背後で花火があがる。
「わー!きれい!!」
花火の光が当たった美帆の横顔が、南にはとても素敵に見えた。
「綺麗だね…」
花の幻想が南を心の底から酔わせた。
このまま二人の時間が続いていくかのように思えた。
「ね。別れよっか。私たち」
駅のホームで、突然美帆は南に告げた。
「…え?」
「好きな人が出来たんだ…。ごめん」
「……」
何も言えないまま、ずっと美帆を見つめていた。
電車が彼女を連れ去った後もずっと、かつての恋人のいた場所をみつめていた。