喫茶店2階 [Proper (プラパァ)]
【登場人物】
喫茶2Fの主:一線を退いた老いた占い師の女。
時折響いてくる一階の喧騒をよそに、女はヴェールで顔を隠したまま目の前の男の話を聞いていた。
壮年の男はこれからたどるべき道を女に尋ねに訪れたのだった。男は年老いて腰の曲がった女に、これまでの経緯を語った。
七年ほど前、ある国が倒れ、その住人が行き場を無くしたこと。人々が散り散りになる直前に彼等を受け入れた国があったこと。だが、その国もまた心無い人々によって荒れ果ててしまったこと。
男は本当は彼らをこの国に招き入れかったのだと嘆いた。女は男に何故そうしなかったのか尋ねた。居場所がなくなれば人は放浪するしかなくなる。つながりは簡単に断ち切れてしまうのだから。
女に問われ、男は力なく呟いた。当時の自分には知識も能力も時間もなかったのだ、と。
女は続けざまにこう尋ねた。では今は何を望んでいるのか、と。
男はしばらく考え、おもむろに口を開いた。未だに散り散りになった仲間達に会うことを夢見ている、と。
腰の曲がった女は男の答えに哀しげに首を振り、壁に貼ってある地図を指差した。
この国にはまだ名もない、風景さえ明らかでない場所が数多く存在する。失われた時は戻りはしないが、仮にかつての仲間に会えずとも、志を共にする者には出会えるのではないか。
老婆の言葉に男は顔を上げた。男は目に滲む寂寥を覆い隠すようにかすかな笑みを浮かべた。
2階の命名者Mさんへ