絵画の街 [Birosuga(ビロスガ)]
【登場人物】
広告塔の主:何処からか広告を拾い集めてくる旅好きの老人。
その街は複雑に道が入り組み、袋小路が多かった。果てにはすべからく路上の絵描きが己が絵を広げ、迷い込んできた客にその絵の由来を語らった。
誰が支配するともない街には名もない絵描き達がどこからともなく集まり、己の夢を昼夜を問わず語り合っていた。喧嘩も酒も煙草もあったが、それは全てこの街の住人の熱意の表れの一端に過ぎなかった。
だが、そんないつも祭りの最中にあるようなこの街の一番古い通りにいる男は、静かに微笑んでいるだけだった。通り過ぎる人を観察し、皺だらけの手でキャンバスに筆を走らせてはほくほくと笑った。
男は特に絵がうまいわけではなかったが、知らぬ間にふいとどこかへ出かけては、誰も見たことがないような美しい絵を手にこの街へ舞い戻った。そんな時、彼の顔は本当に満足そうだった。
その男は自分が持ち帰った絵を見せるため、小さな屋根の付いた柱を街の片隅に設置した。
いつしかそれらの絵は風化して見ることができぬものも増えていったが、男は一向に構わず絵を見ては微笑んでいた。失ったものは多くとも、彼はそこに変わらぬ時を見ていた。旅の出会いと別れをそこに見ていた。
男は今も変わらず古い通りの前にいて、通り過ぎ行く人々を静かに観察している。いつか見知った人が目の前を通り過ぎるのではないかという、淡い期待を抱きながら。
街の命名者、ねじさんへ