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第66話 母と子

おはにちは!

久々の更新ですが、すごいドロドロした内容になってしまいました。

さらに久々すぎて、文章が下手くそになっているという残念な結果に。

これから更新していく中で上達し直せたらと思います。

では、お楽しみください。

 振り返った俺の前に、その女性――円さんは立っていた。


「円さん? どうして……」


 ここに。そう発するはずだった俺の口は、不自然に閉口したまま開かなくなった。

 理由は語らずとも、肌に触れる空気がそれを教えてくれた。


良祐りょうすけさん……」


 これは……落胆? 失望?

 円さんの感情を含んだ屋上の空気は、娘を失った悲しみではなく、俺に対する失望に彩られている。それも、怒りすらその内に宿して。

 ……どうしてそんな感情を俺に向ける?


「あなたは……」


 元気をなくしていく語尾が、俺に余計な詮索を抱かせる。

 怒りをぶつけられるのか? それとも絶縁を切り出されるのか?

 しかしそんなことはどうでもよかった。姉貴を失い、自己嫌悪の果てに仲間を失望させた俺の心は、もうすでに取り返しのつかないほど荒んでいる。今更、怒りも、絶縁も、俺にとっては現実から逃げるための言い訳にしかならない。

 むしろ銃口でも向けて心中を図ってくれたほうが、俺にとってはどんなに良いことか。


「結局」


 だから俺は、刑を読み上げられる罪人のごとく、その言葉を待ちたかった。

 やっと重荷から解放してくれる言葉を、待っていたかった。

 その考え自体が、自殺志願者の胸中に酷似していたことを、この時の俺は知らなかったが。

 だが、やはり、予想と現実は相容れないものなのだ。


良太郎りょうたろうさんには成れないんですね」


「………………ぇ?」


 怒り? 絶縁? そんな言葉じゃない。

 円さんの口から出たのは、感情のことでも姉貴のことでもない、俺の父親の名前だった。


「ちょ、ちょっと待て。なんで今、親父の名前が出るんだ? 今は姉貴の……」

「あなたはっ!」

「!?」


 生まれて初めて聞いた円さんの怒号は、俺の中から思考という思考を奪っていった。

 考えが停止した脳内に送り込まれる映像は、鮮明に円さんの表情を映し出している。

 怒り。憎しみ。そして殺意。比喩ではなく、鬼の形相だ。


「最愛の人の名を汚し、貶め、失望させたっ!」


 最愛の人? 名? なにを言っている?

 娘が死んだ状況で、その母親が、夫の名前の名誉を気にしているのか?

 まさか、そんなはずは……


「良の名前は気高く、正義を為し、人を助ける存在でなければならないのにっ!」


 そんな……はずは……


「それをあなたはっ!」


 ある。それが変えようもない現実だった。

 やめろ。やめてくれ。

 姉貴に似た容姿のあんたが、そんな狂ったことを言わないでくれ。


「やっぱり、子供に同じ名前をつけるんじゃなかったんですっ!」


 俺は崩れ落ちるように膝をついた。

 母親の言葉は予想以上に俺の心を削ったから。違う。そんな生易しいものじゃない。


「そういう……ことだったのか……」


 今、俺の中ですべてが繋がったからだ。

 だって、不思議に思わないか?

 円さんがなぜ、ここまで俺にベタベタだったのか。

 母親の情を超え、恋人の愛情にまで至ったのか。

 真実は簡単なことだったのだ。


「円さん、あんたは……“最初から俺のことなんて見てなかった”んだな」


 そう。彼女は俺のことなど見ていない。

 俺が似てしまった、夫である良太郎しか、円さんは見てなかったんだ。


「親父が到る所に行き、会えなくなったあんたは、変わりに俺を親父とすることで寂しさを凌いだ。あんたがつけるのを反対した良の字が、それをより、現実的にしてしまったんだな」


 だから母親の情ではなく、恋人の愛情。

 姉貴には親友として。俺には恋人として接することで、空いた穴を埋めようとした。

 道理で子供っぽいわけだ。最初から母親じゃなかったんだから。円さんの時は、おそらく良太郎と結ばれた18歳頃から止まっているんだから。


「はは、ははは……」


 去年感じていた円さんの評価は、間違っていなかったんだ。

 俺に向けられた愛情は、俺が似てしまった父親に対するものだって。そう感じたのは、間違いじゃなかったんだ。


 狂ってる。この家族は……前原の人間は、みんな狂っている。


 俺も、姉貴も、円さんも、親父も。すべて狂っていたんだ。

 家族なんて存在しなかった。すべては幻想だったんだ。


「ふざけるなっ!」


 気づいた時には駆け出していた。一直線に、幻想の母親の下へ。

 握り締めた右拳を振り上げる。


「っ!」


 円さん……いや、さん付けなんて敬意を払う必要もなくなったか。

 円は身にまとった殺意を両手に滾らせ、俺が敵意を持ったのに驚きもせず、冷静に距離を詰めてきた。


 振り下ろされる俺の拳。それを円は受け止め、捻り上げ、背負い投げでいなしてしまう。


 背中からコンクリートに叩き付けられた俺は、即座に体勢を立て直し、円を睨む。


「ふざけるなっ! 俺が、俺たちが過ごして来た16年間をっ! あんたの幻想なんかで打ち砕かれてたまるかっ!」


 彼女は、俺の言葉に大層憤慨したようすで叫ぶ。


「幻想!? 私には純然たる事実でしかないんですよっ!? あなたも、友達も、なにもいらなかった! ただ、良太郎さんと共にありたかっただけなんですっ! それなのに……!」


 一瞬、円が視界から消えた。だが次の瞬間には、目前にまで迫ってきている。

 俺は転倒を狙った足払いをするも、またも彼女は姿を消していた。


 どこに? 右? 左?

 と、屈んでいた俺の足元を、影が移動しているのが目に入った。


「上かっ!」


 視線を上げた俺の視界に、スカートをたなびかせた円が、足を振り上げているのが見える。おそらく、足払いを上に跳んでかわし、そのまま踵落としでケリをつけるつもりだろう。

 俺は身を低くしたまま、左に側転して踵落としを回避。さらに彼女の第二撃の回し蹴りも、後方に素早く跳んで避けきった。


「それなのに……! 良太郎さんは消え、子供だけを残して行ってしまった……。母親なんて私には無理だったのにっ!」


 嘆くように、両目を手で覆い隠す彼女には、母親としての威厳はなく、ただ少女としての悲愴感だけがあった。

 それを見て、俺は一つ、気になったことを聞いた。


「今まで聞いたことはなかったけど……、あんたは親父に会う前、なにかあったのか?」


 円は反応を示すものの、苦虫を噛み潰したような表情をするだけで答えてはくれない。


「もしかして……、さっきの強さに関係しているのか?」

「!?」


 どうやら当たりのようだな。

 まあそもそも、普通の女性はいきなり視界から消えたり、仮にも男の拳を受け止めて、捻り上げて、投げ飛ばすことなんて出来ないはずだ。

 腕っ節が強いってことは、それ相応のことをやっていなければならない。

 武道をやっていたのなら、やっていた理由だってあるはず。それも、ここまで強くならなければいけない理由が。

 そして、強くならなければいけない理由の中に、母親になるのを嫌う理由があるとすれば。


「あんた……もしかして……」


 答えはそう多くはない。


「母親になにかされたのか?」

「っ!」


 瞬間、強い衝撃と共に目の前が真っ暗になった。

 衝撃を受け、視界が暗く染まったことを理解した時には、さらに背中から衝撃を受け、視界に光が戻ってきていた。

 どうやら一瞬の内にアッパーカットを食らって、背中から地面に沈んだようだ。

 前原さんちのご婦人は、縮地しゅくち(瞬時に距離を詰める移動法のこと)の類でも使えるんじゃないだろうか?

 苦労の後が窺えるってものだ。


「いっつぅ……、手加減なしかよ」


 ふらつく体をなんとか起こし、足腰に力を入れて地面から立つ。

 チカチカする目を瞬き数回で落ち着かせ、円のほうへ向けた。

 目を見開いた彼女の様子から、先の質問は図星であることが明白だろう。


「トラウマなのかもしれないけど、教えてくれないか?」


 血の味がする。口の中を切ったのかもしれない。

 なんて現実逃避しても仕方ない。この先を言うのは躊躇われるが、いまさら気にしても誰が救われるわけでもないしな。


「この…………名前も、家族も失った、一人の子供にさ」

「!!」


 なんであんたが驚くんだよ。あんたが言ったんだろ。良の名前を付けなければよかった、あなたなんていらなかったんだって。

 俺は前原の家の子じゃなくなったし、良祐という名前もなくなった。

 望まれてなかったんだな。俺も姉貴も。


「そ、それは……」


 円は視線を泳がせてなにかを言おうとする。

 しかし俺は鋭い眼光でそれを阻止する。


「後悔しているみたいな表情でなにを言うつもりだ。あんたがいまさら前言を撤回したところで、あんたの本音がなくなるわけじゃないし、俺だってあんたを母親と思うことはもうない」


 キツイ言い方だったかもしれない。でも、こうでもしないと俺の気が済まなかった。

 俺にだけ言うならそれほど怒りはしなかったかもしれないが、姉貴も含むんなら話は別だ。


「そして、俺が死なせてしまった人の存在にまで話を伸ばすのなら、一戦や三戦交えるのはいとわないぞ。…………それぐらいの覚悟もなしに話をしているのなら、たとえあんたでも容赦はしない」


 俺に残された最後の理性が訴えかけてくる。

 もう、いいんじゃないか、と。


 姉を死なせ、仲間から信頼を失い、母親から存在を否定された、俺に残された最後の理性。

 それが俺を、なんとか保たせてくれる。


「まあ、それより。あんたから存在を否定された俺に、否定するに至った経緯くらい、教えてくれても罰は当たらないだろ?」


 もう、笑顔を作れなくなった顔に、精一杯の優しさを込めて。

 円を母親から解放する。それが出来るのは、俺しかいないのだから。


「それがあんたの、母親としての最後の仕事だ」


 怒りの、絶望の、悲しみの代わりに。

 ヤケクソになった頭を使い、俺は――。

いかがでしたでしょうか?

途中、なに書いてるかわからなくなりました。

すいません。本当に申し訳ないです。

意味がわからないところは直しますんで、どんどん言ってください!

そして文章が元に戻るまで、生暖かい目で見守っていてくださると助かります。

御意見御感想お待ちしています。

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