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第62話 襲い掛かる波紋

お楽しみください

 湊の問題も一応解決し、現時点で対処しなければならない事は脱出位だろう、と言う事で、差し迫った脱出作戦の為に体を休めていた時だった。


「……今度は何だ?」


 連日の度重なる収集に、休めたくても休められない体をこき使いながらも応じると、何やらただならない雰囲気だった。

 それを生み出しているのは、監視モニターの前で言い争う早織と、俺の知らない3人組の会話のようだ。


「冬紀君が助けた人達が忘れ物したから売り場に戻りたいって言ってるみたいだよ」


 誰だあいつら? と首を傾げていた俺に、野次馬と化していた姉貴が説明をしてくれてようやく事態が呑み込める。なるほどね。確かにそれなら早織が怒鳴る理由も分かるな。

 俺は延々と続く水掛け論を終わらせるために口を挟んだ。


「はい、ストップ」

「! ……良祐」

「リーダーさんですか?」


 どうやら一番熱くなっていたのは生存者の女性だったようで、そのことからも忘れ物とやらは女性がしたと予想できた。他の2人の男性は後衛に回ってあーだこーだ言ってるだけか。

 兎角、その一番熱くなっている女性の言葉に、俺は一瞬違和感を覚えた。


「……ああ、俺がリーダーだけど」


 ただその正体が把握できなかったので、とりあえず疑問は棚上げしておく事にした。


「聞いて下さい! 私、お祖母ちゃんの形見を2階に忘れてきてしまったんですけど、この子が取りに行くなって言うんですよ!!」

「わ、分かったから。とにかく落ち着いて」

「は、はい……」


 す、すごい剣幕だ。それだけ形見とやらが大事なものなんだろうか?

 まぁ分からなくは無いが、自分の命を掛けてまですることか?


「形見とやらが大事なのは分かった。

 でもそれの為に命を掛ける覚悟があるのか?」

「あります!!」


 …………はぁ。即答で返されると問いた俺が馬鹿みたいじゃないか。


「……OK。俺が護衛に付いていくよ」

「本当ですか!!?」

「ああ」


 年上だろうに姉貴みたいな無邪気な表情で嬉々とする女性の反応に、俺としても今までと違うような情動が芽生えている気がした。

 それは過去に失った他人に対する気遣い。

 多分、そんなもの。

 まぁ、失ったそれが俺に戻ってきたと言うなら、確実にゾンビ発生からの経験と仲間たちのおかげだろう。


「待って良祐。私も行くわ」


 何故か、俺と女性の間に割って入るようにアーティが口を開いた。


「じゃあお姉さんも!」

「僕も行くよ」

「アタシもだ!」


 それに続けと、お馴染みの3人、姉貴、冬紀、理奈が同行の意思を示した。


「……好きにすれば良い」


 本当は俺が言ったことだしと言う事で1人で片をつけようかと思っていたが、好奇心旺盛というか正義感の強い奴らというか、反抗しても意味が無いし俺は容認するしかなかった。

 早織には悪いが、残りのメンバーと残ってもらう事にした。

 その際に多少の反感はあったものの、早織も残された者の心情を少なからず理解しているからか強く言ってはこなかった。形見が有るのと無いのとでは精神に及ぼす影響が違うという事を考慮したのだろう。


「2階のどこにあるのか分かっているのか?」

「はい」

「んじゃ、さっさと終わらせよう」


 その後、各自準備を終えて専用通路で集合する事となった。





 女性が形見を忘れた場所に、俺を含む8人が向かっていた時、


「……真実は、時に己の周りから全てを奪い取っていく。

 そして、最後には変えようの無いはずの己の存在を変えてしまう」


 ふと、香澄さんから貰った手帳の最後のページにあった言葉が、脳内に響いた。


「えっ?」


 自立宣言以来、間抜けな表情を(あまり)しなくなった姉貴が、小さく呟いたはずの言葉に反応を示す。俺は何でも無いと頭を(横に)振り、緩んでいた気を引き締めた。


 何故このタイミングで手帳の言葉が再生されたのか理解に苦しむが、俺にはそれが何かの暗示に考えられて仕方が無かった。

 無意識に口に出してしまった事と言い、一体全体どうなっているんだ?

 この言葉に意味があるのか?

 もし、この言葉に何かしら意味があるとしたら、これを記述したR・M氏に出会ってみたいものだ。


 などと考えている最中、アーティがずっと俺を見ていた事には、残念ながらこの時の俺は気付いていなかった。


「着きました」


 案内役を買って出た女性が発した言葉により、俺たちはようやく目的地に着いたのだと理解した。


「ここは……ホームセンターゾーンか?」


 大きな入り口を潜って前言した場所に入ると、木材や工具といった凡そ日用大工の道具類が堂々と鎮座していた。その事からも、発した言葉は間違ってないと断言できる。


 そして俺を追うように(比喩であり実際は違う)、他の7人が入り口を潜った。


「それで? 忘れ物とやらはどこだ?」


 視線を木材類に向けたまま、後方に居るであろう女性へ向けて問う。


「……もう、ありましたよ」

「!!?」


 先程と打って変わって暗い声と、明らかに俺たちへ向けられた殺気を感じ取り、俺は振り返りながら横へステップで移動する。と同時に、銃声・・が室内に反響し、俺が居た場所の床が捲れた。

 全員――生存者以外――の視線が、女性へと一斉に集まる。


「……随分、物騒な忘れ物だな」


 女性の手には、独特な形状の銃器・・が握られていた。

 更に、その横に並ぶ男性2人も、同じ形状の銃器・・を握っている。


「P90かよ。

 日本で手に入れるには…………少々難儀な銃だな。

 お前のお祖母ちゃんはそんなに人を殺したかったのか?」


「…………へぇ、この銃の事を知っているのかい?

 しかも銃口を向けられているのに軽口叩く余裕があるなんてね。

 惚れちまいそうだ。」


 そりゃどーも、と半眼で返し、この事態に思考を巡らす。


 あの3人組はおそらく、戦闘に通じるプロフェッショナルの類だ。

 そいつらがなぜ、俺達を罠に掛けたのか。

 すべては想像するしかないが、ヤバイ状況だというのは火を見るより明らかだ。


 顔を動かさず、視線だけを女性の銃に向けた。


 FN P90。

 分類的に言えばサブマシンガンになるのか?

 PDW(パーソナルディフェンスウェポン)とかいう対ボディアーマー用に作られた、初撃の貫通性がとんでもない銃器だったはず。

 弾倉(マガジン)が機関上部に沿うように設置されているという異例な配置ながら、弾薬を横に寝かせる事によって装弾数の向上と形状の略化がなされている。


 まぁつまり何が言いたいかというと、あいつらは俺達を無効化しようとしているんじゃなくて、殺そうとしているというわけだ。


「余計なことは考えるなよ。

 リーダーはこっちに来い。他は壁際でうつ伏せになれ」

「………………わかった。みんな、抵抗はするな」


 言われた通りに俺は3人組のもとへ、理奈達4人は壁際に向かって歩く。


 はぁ、こんなことになるなんてな。

 また選択を間違ったと、つくづく思う。

 ある意味でも早織の言っていた事は間違ってなかったんだな。


「何が目的だ?」


 打開策は無いものか? と、のん気な楽観思考で問いかけた俺をあざ笑うかのように、


「じゃあ…………死ね」


 女性のP90が不意に火を噴いた。


「っ!? ぐぅ!!」


 一秒にも満たない瞬間的な事象に反応出来るはずもなく、放たれた弾頭は俺の左肩を掠っていった。

 苦痛から、片膝をつく。


「おい、外してんじゃねぇよ」

「うるせぇ、久しぶりだからしょうがねぇだろ」


 女性と男性2人の不気味な笑い声が響く中、俺は自分の迂闊(うかつ)さに唇を噛み締める。


 ミスった。考え違いだ。

 俺はこいつらを戦闘のプロだと評し、無意識の内に特殊部隊や傭兵の類を連想してしまっていた。だが、事実はもっと簡単なものだったんだ。

 殺し屋、あるいは殺人鬼。それもまた、戦闘の、殺しのプロだ。

 だとしたら警備室の違和感の正体も合点が行く。

 P90を持っている時点で奴らに後ろ盾があるのは明白。

 つまり依頼があったわけだ。依頼者は警備室にいる誰か。

 そう考えれば、俺がリーダーだということを女性が知っていてもおかしくはない。そしてそれが、違和感の正体。簡単な事だ。女性は俺と出会った瞬間に迷わずリーダーと言っていたんだから。


 俺は向けられた銃口、その先にいる奴らを睨み付けた。


「最初から筋書き通りってことか」


 女性は聞いた瞬間、不適な笑みを驚きに変えた。


「ふぅん、驚愕から確信の表情に変わっているねぇ。

 今の一瞬で背景を読み取った。……というより、推理した。……かねぇ?

 油断ならない子だよ」


 表情からそれだけ読み取れるアンタも油断ならねぇよ。というツッコミは思考の山に埋め、肩の痛みを我慢しながら策を練る。

 しかし3人が3人、猛者(もさ)の風格を漂わせており、行動の端々に警戒が垣間見えている。俺が動いた瞬間、容赦なく頭を打ち抜かれるだろう。


「まぁ、関係ないんだけどね。死にな、リーダーさん」


 どちらにしろ時間切れのようだ。

 結局死ぬのなら、一か八か、殺すのを覚悟でなにかやってみるしかない。

 出来れば殺したくなかった(・・・・・・・・)んだがな。

 俺は脚に力を込め、タイミングを見計らった。

 横に退いてUSPでけん制し、注意を引いたところに理奈達の援護を期待するか。

 タイミングが重要だということはわかっている。

 後は俺の、ポテンシャル次第だ。


 注意深く女性の指の動きを観察し、引き金の作動地点一歩手前ぐらいで足の力は頂点に達した。これで、いつでも動けるようになった。と、同時に、


「あっ、指が滑った」


 俺の頭を向いていた銃口は脇に逸れ、銃声とともに発射された弾頭は、その先にいた、


 姉貴の胸を貫いた(・・・・・・・・)


『……………………えっ?』


 ついに、大きさを増した波紋が襲い掛かってきた。

 俺達はそこまで到ってようやく、波紋の存在に気づいたのだった。

いかがでしたでしょうか?


最近ギャグが少なくなってきた挙句に、コレデスヨ。

ヤバイ、心折れそう。


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