第54話 こいつガ○ホモだあぁーーーー!!
お楽しみください
助けた少女の名前は絵素というらしい。
少女を宥めていた(?)むさ苦しいロリコン2人組は兄弟で、弟が得留、兄が獲武と言っていた。
これもうサイズじゃねとか、某国民的オーバーオールおじさんを思い浮かべないでもないなとか、色々思ってしまったのは一時の気の迷いだ。
ともかく救出した生存者3人を警備室に連れていき、俺は起きていた冬紀と共に浴槽を取りに向かっていた。
「そういうことなら言ってくれれば良かったのに」
「寝ていた奴が何を言うか!」
最初相談した時に、そう会話したのを覚えている。
思い返せば冬紀と2人だけというのはゾンビが発生してから無かった気がする。
まぁ、男だけじゃないと話せない話題もあるから良い機会なのだが。
ちなみに現在、俺たちは4階を歩いていた。
俺の武装は前回と同じMP5K。
冬紀は日本刀とイサカM37だ。
「そういえば冬紀。お前、俺がいない時は男1人だったんだろ? 何かあった?」
「何かってなんだよ……」
冬紀は苦笑して、俺から視線を逸らした。
なに? なに? 面白いことでもあったのか?
「連日連夜奴隷のように扱われただけさ」
「………………何か……すまん」
あの冬紀が遠い目をしている!? どんな悲惨なことをやられたらこんな風になるんだ!? 外面だけじゃなく内面もイケメンな冬紀が!? ていうかもう達観してないか!?
このことに関しては深く踏み込まない方が良さそうだ。
最悪、俺も明鏡止水を体得しかねない。
俺はこの歳で悟りたくはないぞ……!
言いようのない寒気を感じていた時、ポケットに入れたケータイがまたも震えだした。
『今度は2階みたいだ』
通話ボタンを押して通話口を耳に当てた瞬間、簡潔に用件を告げられてしまった。幸田さんめ……! ボケ殺しか!
『ただ様子がおかしい。気を付けて』
「了解でっす」
通話終了のボタンを押し、ポケットに放り込んだ。
2階って反対だし、ボケさせてくれないし、浴槽取りに行けないし。
次々と巻き起こる不運に某上条さんみたい叫びたくなってしまったが、隣に冬紀がいることを思い出して自粛する。
しょうがないので、冬紀に生存者がいることと2階であることを述べて、走り出した。
程なくして目的の2階にたどり着くと、早速生存者を見つけた。
その人は俺たちに背中を向け、暗幕の様な物をマント代わりに羽織っているようにも見える。
「大丈夫ですか?」
と、油断無く日本刀を構えた冬紀が問いかけると、男はゆっくり振り返って、その姿を俺たちに晒した。
その姿は某国民的ネコ型ロボットのお面をし、暗幕をマントのように羽織った、服を全く着ていないボディビルダーのような体格の男だった。
俺と冬紀はその姿を見た途端、真っ先に同じことを叫んだ。
『変態だあぁーーーーーーーーーっっ!!』
男は絶叫を意に介す様子もなく、右腕に力こぶを作ったと思えば、
「ウホッ! 良い男」
と言い始めた。
この場の室温が氷点下を記録した瞬間だった。
『こいつガ○ホモだあぁーーーーーー!!』
またも同じことを叫び、俺と冬紀は今まで見せたことのないシンクロ率でその場から逃走する。何故かって? 俺たちの貞操が危ないからだ!!
今だったらアーティの走力すら超えられるんじゃないかっていうほどの全力疾走で変態から遠ざかるが、いつの間にか前方に回り込まれ、やむなく急停止した。
「やらないか?」
変態のその一言に、俺たちはもの凄い剣幕で断言した。
『やりませんっっ!!』
しかし変態は俺たちの言葉を無視し、ゆっくりと距離を詰めてくる。
俺たちは変態が詰めた距離だけジリジリと後退し、やがて壁に追い込まれた。
「お帰りくだせぇ、お帰りくだせぇ……!!」
まるで祟り神に拝み倒すような村民のように、両手を合わせて祈ってみるが、当然のように効果はなかった。だが変態は一定の距離まで詰めると、それ以上は距離を詰めなくなった。
突然の行動に不審に思いながらも、一時の猶予が出来たことに安堵する。
すると変態は懐から150センチの長さの杭の様な物を出すと、俺たちの方へ突き立てた。
何かもうイヤな予感しかしないし、あの杭みたいのがスゴく禍禍しく思えるし。
案の定、変態は一瞬の間を置くと、もの凄い勢いで突撃してきた。
それを間一髪で回避し、冬紀は変態に切りかかった。が、それは変態が杭で受け止めてしまう。
「良祐!」
冬紀の声を聞く前に照準を変態へ向け、フルオートのクルツで引き金を引いた。
連続する銃声と反動から8発程度は放ったはずだが、その全てはマント代わりの暗幕の中に呑まれて、消えた。
「そんなのありかよ!?」
驚愕する俺の視線の先で、冬紀は一旦距離を置いた。
こんな得体の知れない奴を相手に真っ向から切りかかるのは得策じゃないと判断したのだろう。妥当な判断だし、もし近接で特攻したりすると、何かの拍子にやられかねない(いろんな意味で)。
つまり、こいつには一斉射撃! 安全かつ的確かつ安全かつ安全にぃ!!
「かつかつうるさいし、どれだけ安全を望んでるんだ」
冬紀にモノローグをツッコまれた件はさておくとして、作戦の意図を理解したのか、冬紀は日本刀をイサカに持ち変えて変態へ向けた。
俺もクルツを変態へ向け、2人同時に引き金を引いた。
俺は引き金を引き続け、冬紀はポンプアクションで連続射撃する。
しかし、変態に向かっていく弾丸は、暗幕の中に呑まれると一切の消息を絶った。反対側に落ちるわけでもなく、変態にダメージを与えるわけでもなく、忽然と姿を消したのだ。
「いやだから、どういう原理なんだ? 4次○ポケット?」
謎が尽きない変態は、懐から1メートル程度の杭を出すと、それを投げつけてきた。
「ヤバい! 掘られる!?」
俺のことは無視してくれて構わない。どうぞご自由に軽蔑してくれ。
ともかくそれを右に回避して、弾丸が無くなったクルツの弾倉交換を迅速に行う。その間にさっきの杭を沢山出していた変態が、またもそれを投げつけてきた。
「ヤバいよヤバいよ!!」
某リアクション芸人のマネをしながら、冬紀と共にそれらをどんどん回避していく。変態のマントは本当に4○元ポケットのようだ。全く尽きる様子がない。
このままでは死亡確定は必至なので、一瞬の内に冬紀とアイコンタクトを交わし、変態へ同時に突撃した。
理由は簡単。「引いてダメなら押してみろ!」と言うわけだ。
俺たちはそれぞれの近接武器を持ち、杭を回避しながら歩を進める。
俺は左手に短刀を持ち、右手に持ったクルツで変態へ向けてフルオート射撃を敢行した。それは片手ということもあって数発外してしまったが、そのほとんどは命中したはずだった。
だがやはり、あの不思議なマントのせいでダメージを受けた様子はない。
しかしこれはただの牽制。本命は冬紀だ。
冬紀は日本刀で切りかかるが、それは長い方の杭で防がれた。
俺も左手の短刀で切りかかる。だが短い方の杭で防がれてしまった。
だけども、これも囮だ。俺は肩に掛けたままだったクルツを手放し、右の拳で変態の顔面(某国民的ネコ型ロボットのお面)を殴った。
変態はよろめき、後退する。
それにすかさず、冬紀と共に渾身の回し蹴りを放った。
変態は大きく後退し、エスカレーターから転げ落ちていった。
その下には6体のゾンビがいて、転げ落ちてきた変態の体に噛みついていく。
なんか、「いやんやめてぇ」とか「そこはダメぇ」とか聞こえてきたが、俺たちは意に介してないよ。そんなことどうでもいいからね。
俺は無言でポケットから手榴弾を手にし、ピンを引き抜いて変態の下へ放った。
そして死に様を見るまでもなく、振り向いて冬紀と歩き出す。
たった一言、冬紀とハモった言葉を残して。
『殺られてろ』
後方の階下で、凄まじい爆発音が響いた。
いかがでしたでしょうか?
良祐君と冬紀君でやってみたかった話です。
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