第49話 なんだ。今回は理奈フェイズか
お楽しみください
今回のミッションは食料の調達だ。食料品売場は1階にある。
俺たちは速やかに1階まで急行、そしてターゲットを迅速に確保するんだ。
先だって記述しておくが、俺の武装は前回に続きMP5Kである。
同様に理奈はライオットガンとマカロフ。サクラはベレッタ90ーTwoと長刀。円さんは未だに角材刃矛を使っている。さすがに銃器も持っているが、ベレッタM92FS1挺だけである。
現在俺たちは警備室の専用通路を歩行中だ。今ちょうど2階に差し掛かったところである。
「そう言えばさ。良はなんでこのメンバーにしたんだ?」
全くもって緊張感のない理奈の声に、1人ス○ークさんみたいに隠密していた俺は気分を無くしてしまった。しょうがないから普通に戻って答えてやる。
「冬紀は俺以外じゃ唯一の男だから俺とは別だろ。残った女性陣を見て、これが最も良い分配だと思ったんだ」
「ふーん」
もはや興味なさげな理奈にイラっときたが、ここまで来たからには意地でも語ってやると言葉を続ける。
「それに……相性良さそうだったし」
『!!?』
何か今、メタル○アソリッドの敵に見つかった音みたいなの流れなかったか?
まぁ、いいや。もうメンドクサいし語るのやめやめ。しかし……
「で?」
「は?」
何故か理奈が会話を終わらせてくれない。さっきまで興味なさげだったのに。
良く見れば、3人が3人とも聞く耳を当てているようにも窺える。
「誰が一番?」
サクラの問いかけに、俺は誰が一番相性が良いか考えてみる。
と言ってもなぁ。円さんとサクラとは一緒にやってないからなぁ。逆に理奈とは出会って程なくしてやったし。やっぱそう考えると……
「理奈だな」
妥当だろう。それに1回や2回じゃないし、俺としてもやりやすい感じはある。
だが、理奈を除くサクラと円さんに変な視線を向けられた。俺なにかしたか?
当の理奈は「アタシかぁ……えへへ……」なんて理解しがたい反応を示しているから頼りにならないし。頬を紅潮させる意味が分からない。
「大体、そんなこと聞いてどうするんだよ。"共闘の相性”なんて」
「…………はぃ?」
今まで謎の世界に旅立っていた理奈がゴ○ゴの13みたいな表情で凍り付いた。
他の2人も、「両親の死の真相を聞かされ、挙げ句の果てに一番の親友だった奴と一番好きだった恋人が裏切り出来ちゃっていた時の、まだ幼い16歳の主人公」みたいな表情で俺の顔を凝視してきた。怖っ! お前ら怖っ!!
「……だ、だってサクラや円さんとは2人1組で戦ったこと無いからわからねぇし」
普段とは違う3人の雰囲気に圧されつつ、俺が何とかそこまで絞り出すと、3人は三者三様の反応をした。
「相性って、それのことかよ!!」
理奈に胸ぐら掴まれ、般若のような能面顔でスゲェ怒られた。何で?
「まぁ、良祐君のことだからそんなのだとは思っていたけど……」
サクラはある意味でも付き合いが長かったから、何かもう悟っているみたいな表情で呆れられたがな。
「ヒドいです良祐さん! 乙女の純情を弄ぶなんて……!!」
人聞きの悪いこと言うな! 勝手に勘違いしたお前らが悪いんだろうが!
まぁもっとも、今この場でそんなこと言おうもんなら間違いなく10分の9殺しは確定だろうから、俺はあえて言わないんだけどね。
「早く行こうぜ! みんなが食料待っているんだからさ!」
理奈の拘束を解き、大急ぎで1階まで駆け下りた。
危ない危ない。あのままじゃ確実に面倒ごとに巻き込まれそうだったぜ。
うちの女性陣怖っ! 恋はしないが俺の信条だが、このままだと女性不信になるかもしれねぇ。主にアイツらのせいで。
ともかく俺は、さっき幸田さんから受け取った鍵のスペアを使って、1階へ続く扉の鍵を開けた。装備を調えて扉を少し開ける。隙間から外を覗くと、段ボールが積まれているのが見えた。どうやら職員通路みたいな場所らしい。ゾンビは居ないようなので音をたてずに外に出、いつの間にか後ろにいた3人を先に行かせる。
扉の鍵を閉めて職員通路を進み、近くにあった扉を潜ると、冷凍食品の売場に出たみたいだった。
「とりあえず2人1組で手分けして食えるものを探すぞ」
全員の頷きを確認するのを境に、俺は右拳を突き出した。
それだけで3人は理解してくれ、同様に拳を突き出す。
「行くぞっ!」
「おうっ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
気合い十分、俺の一声を反射するかのごとく声を上げた3人とともに、シンクロした動きで手を後ろに振り絞った。
「最初は……」
次の瞬間、全員が前方に握り拳を見せつけるように出し、『グー!!』と声を一体にして叫ぶ。そしてもう一度手を引っ込め、
「ジャンケン……」
先手の手順を繰り返すように、しかし手の形は各々で変え、みんなに見せつけるように突き出した!
『ポンッ!!』
みんなの手の形を見回してみると、理奈はグー、サクラはパー、円さんはパー。
そして俺は…………グー。俺と理奈の負けである。
「負けた~!」
「ぐぬぬ……」
負け組は(俺も含め)スゴく悔しがって、理奈に至っては唇から血が出そうな程強く噛んでいる。
「上々かな」
「わ~い! 勝ちました!」
勝ち組は勝ち組で(特に円さんが)喜んでいる様子だった。
こいう勝負事は些細なことだけど、負けると意外と悔しいものだ。
俺は勝負事には常人と同程度の関心と運は持っているつもりだが、それでも負けず嫌いが悔しさを生む。さらに理奈は俺より重度の負けず嫌いなので、悔しさもひとしおだろう。
「じゃあ、俺と理奈は右回りで行くから、お前らは左回りな。集合場所はここで、30分後な」
いつまでも悔しがっても仕方がないので、早々に理奈を連れて歩きだした。
何故かサクラと円さんが「あっ!」というような謎の表情をしていたが、興味も無いので気にしないでおこう。
理奈と歩きだして数分経った頃、唐突に理奈が話題を振ってきた。
「……なぁ良」
「なんだ」
全方向に注意を払いながら物陰にも関心を向けなければならないので、自然と返事が生返事になってしまう。だが理奈はその事を分かってくれているので気にした様子はなかった。
「久しぶりだな……」
「…………なにがだ?」
問いかけの意味が分からず聞き返す。だがこれも同様に気にした様子はない。
「2人きりになったの」
そう…………だったか? いや、確かに2人きりになったのは久しぶりのような気がする。最後になったのは去年のような。
「……かもな。だけどいきなりどうした?」
でもだからといって今する話題でも……なくはないか。これを逃したら次はいつこうなるかわからねぇしな。いつの間にか仲間が増えたし。
「どうしたってことも……ないんだけど……」
珍しく理奈は言い渋っている。普段からは想像もつかないような様子だ。
だからだろうか? 見たこともない女の子の表情を見せる理奈に、ふと胸が高鳴った気がした。理奈が頬を紅潮させることは良くあったのだが、それは恥ずかしさやボケであって、こう言うことではない。
「な、なんだよ。珍しくしおらしいじゃねぇか……」
慣れていない雰囲気からか口調がおぼつかない。声が裏返りそうになるのを必死に抑え、出来るだけ平静を保つ。
「アタシがしおらしくしちゃ、だめか……?」
「っ……!!?」
しかしその努力は簡単に崩れ去ってしまった。狙ってやっているんじゃないかと思うほど、理奈は的確に俺の胸の高鳴りを助長させる。俺にはそれを回避する術が……ない。
「初めて会った時、良に助けられたのを思い出して……」
唐突に話題を変えたのかと思ったが、直結させると思い出してしおらしくなったということらしい。相も変わらず会話に整合性がない奴である。
しかしまぁ、理奈が言う初めて会った時。確かに俺は理奈を助けた。
でもそれは初めて会った時ではないはずだ。出会ってしばらく経ってから俺の問題に理奈が突っかかってきて、その時に俺が助けた。だから初めて会った時=俺が助けたにはならないはずだが。
俺がそのことを理奈に話すと、理奈は首を横に振って否定をした。
「違う。それよりも前」
「……前?」
とは言うが、俺にはそれよりも前に助けた記憶もないし出会った記憶もない。
もしかしたら昔、俺に絡んできた野郎共を返り討ちにした時にいたのか? いやでも、こんなキャラが濃い奴忘れるわけねぇし。絶対「誰だか知らねぇけど、助けてくれてありがとな!」とか言ってくるだろうから。
「覚えてねぇ……」
正直に覚えてないことを理奈に話す。怒鳴られるかと思ったが、意外と優しげな表情だ。
「しょうがないって。あの時はお前、スゲェ馬鹿みたいな表情だったからな」
言うに事欠いて馬鹿みたいだと! お前に言われたくないわ!
と言おうとしたが、思い出し笑いしている理奈の表情に何も言えなくなってしまった。静まり掛けていたはずの鼓動がもう一度蘇ってくる。
「と、ともかく! 早く食料を集めようぜ! もう20分位経ってるし!」
胸の高鳴りを誤魔化すために、本来の本題を会話に割り込ませる。
それは結構な効果があったようで、理奈は「そうだな」と言って歩いて行った。
「……はぁ」
誤魔化せたことになのか、懐かしい感覚になのか。どちらにせよ、ふと出た溜め息に余裕がなかったのはしょうがないことである。
とある山中の山道。舗装された道路から眼下をのぞき込む沢山の人たちが居た。
車道の脇が緩やかながら崖になっており、落下防止のために設置されたガードレールから身を乗り出している人すら居る。彼らは何故眼下をのぞき込んでいるのか? と思うだろう。それは、ある1カ所が突き破られたガードレールが教えてくれる。
破られたガードレールから崖下へ辿っていくと、爆発炎上している1台の乗用車がのぞけた。
「……いたい」
その乗用車の近くで、ボロボロになり傷だらけの少女が活力もなく横たわっていた。全く体が動かないのか、少女は立ち上がりもせずに地に伏せている。
「お父さん……お母さん……」
だが少女は自分よりも、両親を気に掛けていた。いや、気に掛けているというより悲しんでいるようにも窺える。
「死んじゃった……」
それきり、少女は死んだような瞳で呆然とする。車の中でともに燃え尽きる両親が、生き残りを少女1人だと物語っているようにも見えた。
絶望の淵で生きる気力を無くした少女は、両親の死を口にしているが理解しているのかどうか。
「もう……」
このままでいいや。そう口にしようとする前に、誰かが言葉を遮った。
「だれだお前?」
少女が声のした方へ視線を向けると、そこには4~5歳程度の少年が訳も分からず少女を見ていた。
「痛そうだなぁ。大丈夫か?」
ノンキに駆け寄る少年は、突然少女の頭を撫で始めた。
おそらく痛いの飛んでけという意味なのだろう。
「どうでもいい。だからあっちいって」
「やだ」
拒否を言葉にするが、それを即答で拒否し返し、むすっとした表情で断言する。
「お前、死にたそうな表情しているもん」
事実そう思っている少女は苛立った声音で叫ぶ。
「何でも良いでしょ! 死にたいの!」
唐突に叫んだ少女にビックリしながらも、少年は強く言い放った。
「ダメだ! 死んだら何も出来なくなる! そんなの悲しいだろうが!」
だが少女は別にやりたいことがないのか、関係なしに怒鳴った。
「何もすることないから良いの! 生きている意味もなくなっちゃったし!」
その言葉に少年はしばらく考え、誰も予想出来ないことを突然口走った。
「じゃあ、僕にご飯作ってよ」
「……ぇ?」
予想してなかった言葉に、少女は呆然と少年の顔を見る。
「それで僕のお嫁さんになって」
さらに言い放った言葉に余計訳が分からず、少女はぼけっと少年を見続けた。
「ほら。すること出来たし、生きている意味出来たでしょ?」
そう言ってニコッと笑った少年は無邪気にとんでもないことを言っているのだが、少年はさして気にしてないようだ。
「あなたは、だれ?」
常識を打ち破ることを連続で言う少年に、少女は訳も分からず問いかけた。
「僕は前原良祐。ただの子供だよ」
そしてこれが、後の少女の運命を変えた出会いだったということは、少年は未だに理解していない。
いかがでしたでしょうか?
おーい!こいつフラグ立ててるぞー!!
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