第46話 ヤーさん関係を語る上でマカロフとポン刀は外せないよね
事務室で駐車場のレバーを倒した俺は、そばにあった事務机の上にドッシリ腰をかけた。
「良祐!」
「良!」
待ちわびたというか、信じられないというか。仕事を終えた冬紀と理奈は、大急ぎで事務室に顔を出す。
少しして、ゆっくりとした足取りでアーティも顔を見せた。
「どうしたお前等。そんな、死んだと思っていた奴が数日後にベストなタイミングで現れたみたいなリアクションは」
「正にその通りだからだよっ!」
いいなぁ、数日ぶりの理奈ツッコミ。何故か癒される。マイナスイオンとか出てるんじゃねぇの?
まぁ、実際はそんな事あり得ないのだけど、ここ数日はツッコミに飢えていたからしょうがない。
「良祐……」
しまった。久しぶりの日常に自分の世界へレッツゴーしてしまった。
冬紀から変な目で見られてるじゃないか。
「悪い悪い。また、こう出来ることが嬉しくて」
とは言ったものの、それは2人も同じ様で、無意識に笑顔になっていた。
「言わなきゃいけないことが沢山あるし、聞きたいことも沢山あるけど、先ずは他のみんなと合流しよう」
「そうだね」
「おう」
休憩もそこそこに、事務机から飛び降りてアーティの所まで歩く。
すっかり忘れていたけど、アーティは俺が置いてったカバンとリュックを持ってきて貰っていた。
「ほら、カバンとリュック」
「忘れていたでしょう?」
気のせいだ。そう心の中で思っておこう。
荷物を受け取り、事務机の上に丁寧に乗っけた。金属バットやら、銃器やら、弾薬やらが入った大切なものだしな。
「理奈。12ゲージの弾もうないだろ? とりあえず30発程度補給しとけ」
「あ、ありがと」
カバンの中を漁って、12ゲージ弾を30発理奈に渡す。
それから理奈の姿を確認して……。
「あと、サブになんか持ってた方が良いな……」
確か拳銃が何挺かあったはずだ。
遠くから当てられなくても、噛まれそうな位近くだったら簡単だろう。ましてや撃ったこと無いド素人じゃあるまいし、ライオットガンを使っている理奈なら楽勝だろうしな。
俺はカバンの中から、ある意味でも有名な拳銃を出した。
「てれれれってれ~。ヤーさんが大抵持っているマカロフ~」
年度で警察署が押収した銃を統計した結果、2000年前後ぐらいからトカレフを抜いてこのマカロフが1位になったとか。暴○団関係は大概持っている、とても(その筋関係では)メジャーな拳銃なんだね。
俺がこの銃器たちを手に入れたのは警察署だから、勿論あったしな。
理奈にマカロフを渡し、あれこれ説明する。
やれ弾薬が9ミリマカロフ弾とか装弾数が8+1発とか作動方式がストレート・ブローバックとか。
まぁもっとも、欠片も理解した様子は見て取れなかったけどな。
ともかくマカロフ自動拳銃とその弾薬24発(弾倉3つ)を理奈に手渡し、冬紀にもプレゼントを手渡した。
「お前にも弾薬と……日本刀だ」
冬紀が使っていたのは古ぼけた鉄パイプとイサカM37だったから、12ゲージ弾と日本刀を支給した訳だ。
イサカM37は12ゲージ弾を使用する装弾数4発のポンプアクション散弾銃。
これも結構メジャーで、映画だとターミネーター。ゲームだとメタルギアソリッドシリーズ、バイオハザード5、コールオブデューティー。アニメだとひぐらし、ルパン三世。マンガでも学園黙示録などで使用される、知る人ぞ知る散弾銃なのだ。
日本刀は警察署で見つけた。マカロフと一緒に押収されたそっち関係のものだろう。うん。
「俺は剣道出来ねぇし、冬紀が使った方が良いだろう」
「……そうだね。受け取っておくよ」
理奈と冬紀に支給しても、まだまだ荷物は減らないものだ。
そう考えながら、荷物を手に取り、アーティの後ろに回った。
「ちなみにこの子はアーティ……じゃねぇ、アルテミスだとさ。以上。質問は受け付けない」
「はいは~い! 何歳なんですか?」
「日本人なのか?」
「質問は受け付けねぇって言っただろうがっ!!」
全く話を聞かない奴らである。殴っても良いかな?
「年齢不詳! 人種国籍不明! 後はみんなと合流してから!」
荒々しく言い放つと、アーティを連れて事務室を後にした。
後ろから何か言っているが、完全無視である。
幸いなのか不幸なのか生存者とは出会わずに立体駐車場まで来れた上、途中でゾンビとも変異種ともはち合わせることはなかった。
おそらくゾンビが進入する前から防犯シャッターが降りていたおかげで、店内への感染拡大は防げたのだろう。立体駐車場のシャッターが降りていなかった理由は不明だが、そっちに進入していたゾンビは理奈たちのドンパチであらかた退出しただろうから、先程の数体にだけ注意していれば何も問題はないはずだ。
俺たちは細心の注意を払いながら、立体駐車場1階、閉鎖したシャッターの前まで来ていた。
「従業員通路はこんな所に繋がっていたのか……」
真後ろでシャッターに群がるゾンビたちを横目に、従業員通路の扉を閉める俺。すんげぇ余裕だなおい。
「一応この中にもゾンビがいるだろうし、気を付けないとね」
冬紀もなかなかに余裕だ。場数が何とやらだろうか? 頼もしい限りだ。
「余裕、余裕!」
理奈も同様に。
「早く行きましょう」
アーティも、のようだ。
…………あれ? マトモな感性の持ち主はいないのか?
いや、俺も同じだから人のこと言えないけどさ、もう少し怖がってもいいんじゃないだろうか? だってすぐそこにゾンビが居るんだぜ? シャッター越しに俺たちに手を伸ばしているんだぜ? 何故余裕?
「…………行くか」
果てしない論理迷路に陥る前に、思考を中断させるよう、声を出した。
類は友を呼ぶって奴だな、きっと。俺はそう断言して歩き始めた。
ゆったりとした斜面を登っていくと、ショッピングモール本館の2階に通じる、F2駐車場にまで出た。
辺りを見回してみても、早織たちが乗ったハンヴィーも、それを追ってきたゾンビも見当たらない。
「次は3階だな」
早々と先に行った3人を追い、俺も3階へ登る。そこにも、早織たちやゾンビは居なかった。
……アイツ等は一体どこまで登っていったんだよ。
何てことを考えていたら、3人が居なくなっていた。
「あれ?」
4階へ行く斜面を見ると、探していた3人が早速見つかる。
俺は全力で追いかけて、
「勝手に先行くなって!!」
怒鳴りつけた。が、しかし。3人は3人して俺の方を見ずに、どこか一点を見つめたまま微動だにしない。
疑問に思いつつもその視線を追って、4階の中心当たりを見た。
そこには早織たちが乗ったハンヴィーと早織たち5人。それと2体のゾンビに1体の走る奴。ついでに……。
「わ~お。デッカい蛇だね」
本日2度目の遭遇、バシリスクちゃんでした!
「いやいやいや!」
ノリツッコミしてしまった。不覚! じゃなくて! 何でここにいんの?
まぁ、考えられる理由としては、立体駐車場に進入したゾンビの中にバシリスクの本体が居たって言うのが、もっとも確実なものかなぁ。
勝てなくはないけど面倒くさいんだよね。それにほら、俺疲れてるし。というわけで。
「俺、ゾンビ3体やるから。バシリスクはアーティよろしく」
「貸し」
「手厳しいなぁ……OK、誰も怪我しなかったら貸しで良いよ」
「お安いご用」
そう言うとアーティは、バシリスクの方へ駆け出した。
俺は俺でXー7を取り出し、HUDスコープを起動させ、モードS、単射でまだ俺たちに気付いていない走るゾンビをヘッドショットする。
そして残りの2体も手短にKILLし、スコープの電源を落としてアーティの方を見た。
アーティは手に持った音聴棒を振り上げ、槍投げの要領で思いっきりブン投げていた。
それは的確にバシリスクの胴体を貫き、中にいる本体を後ろの壁に磔にしてしまう。勿論、脳天を貫いて。
「…………前回もお前がやってくれれば良かったのに」
小さな蛇が消えゆく中、呟いた俺の言葉を遠方から理解し、
「いやよ」
と呟くアーティが見えた気がした。