第43話 あの金属の棒は音聴棒とも言うらしいよ
おはにちは! らいなぁです!
遅くなってすいませんでした!
いや、本当に申し訳ありません。色々あったんですよ、色々と。
とまあともかく、復帰したからといっても今回で急展開はありません。
文字数も少なめですしね。では、お楽しみください。
……帰りたい。
俺が生きてきた16年間の中で、ここまで帰りたいと思ったのは初めてだ。
眼前の光景はポジティブだった思考をネガティブへ持っていくのに数秒とかからなかった。
「現実逃避しても駄目よ」
もはや逃げ場はなくなった。
絶望した。鬱だ。オワタ。
「…………」
ヤバい。アーティがプルプルしてる。完全に怒り心頭の様子だ。
「なんかすいません」
「……別にいいけど」
アーティがキレる前に状況を整理しよう。
俺とアーティはショッピングモール近くまで来たが、大量のゾンビに遭遇した。しかも、変異種らしきゾンビも数体居やがるって話だ。…………鬱になるだろ?
ただ、このゾンビの垣根を越えればショッピングモールにすぐ着くのは唯一の救いだった。
「……つっても、車ごときじゃ無理そうなんだよな」
ちゃんと突撃してもある程度は大丈夫な車……そう、ハンヴィーとかじゃない限り、この物量は圧し負ける。そうなればどうなるか分かったものじゃない。
「なにか……なにか無いか?」
突破口を開くことの出来るなにか……。
物陰に隠れつつ、辺りを見渡してみる。だが、市街地の一角とはいえ、そうそう便利なものなど……と、諦めかけた時、視界の端に"あるもの”を見かける。
「あれは……」
こんな所にあったっけ? そう疑問が浮かぶ俺の後ろから、アーティが疑問の正体を口にする。
「配管の修理店のようね」
正しくその通り。2階建ての小さなビルの1階に、店舗のような佇まいでそれはあった。
看板には配管修理専門店ハヤシと書かれていることからも、そこがアーティの言った通りであることが分かる。
「もしかして……」
俺は1つの可能性を考え、そこに向かう。アーティは何も言わずに付いてきてくれた。
店の中に入ると、そこには普通の様相が広がっていた。何もおかしな所はないはずだ。……多分。
さすがにこのおかしな状況で配管修理専門店に入るバカはいないのか、店内は長机1つとイス5つがキレイに置かれていた。奥には扉が1つと、上に続く階段がある。
目的のものは恐らく事務所だと思うのだが……念のためくまなく探そう。使えるものがあるかもしれないし。
「アーティ。探して貰いたいものがあるんだけど」
アーティにも助力を願おう。1人で探すには些か広すぎる。日没まで時間もないしな。
「……わかったわ」
お得意な読心で俺の思考を読みとったアーティは、スタスタと奥の扉へと消えていく。
ったく、話しがいのない奴だよ。楽だからまあ、いいけど。
ーー数分後。ようやく目的の物を見つけた俺は、アーティと1階の店舗で合流した。
「はい、良祐。懐中電灯と電池」
「あんがとアーティ」
アーティに探して貰ったのはありったけの懐中電灯と電池だった。これから行く場所では必須であるからだ。
どこに行くのかって? それは長机の上に広げられた何か地図の様なものが指し示してくれる。
「下水道の地下通路……よく行く気になったわね」
とは言うが、別に俺が進んで行きたい訳じゃない。地上からゾンビの垣根を強行突破するよりかは幾分かマシなだけだ。……もっとも、地下にゾンビがいない保証はどこにもないのだが。
「ただの高校生が下水道を通らなきゃいけないなんてな。……はぁ、イヤな世の中になったもんだ」
なんて愚痴ったものの、余計に気が滅入るだけだった。
このパンデミックの原因の一端は俺にあるかもしれないし。俺は全く身に覚えがないんだけどな。
湊が言っていたのを信じるとすれば、俺の親父も関わっているらしいし。どこにいるんだあの親父は。
「あ~! 考えるのはやめやめ! 今は理奈たちと合流するのが先だ!」
無駄なことに思考を費やしたって貴重な時間が浪費されるだけだ。
だからこそ先へ進むだけ。香澄さんが言った「俺が関わっている」という言葉。本当なら、いずれ真実が浮かび上がるはずだ。
俺はその言葉を頭の片隅に、下水道の地図を凝視する。
「俺たちがいるのがここ。ショッピングモールがここ。最短だと……」
「ショッピングモール地下の下水処理施設が一番じゃないかしら」
アーティが言った通りだな。そこが一番最適ではある。
だけど念のためもう少しルートを考えておこう。万が一があるとも限らないしな。
すると突然、俺の中で何かがハジケた気がした。そうするとどうだろう? 下水道の地図に数十のルートを無意識に書き込む俺がいた。
「俺、おかしくなったか? すんげぇ頭が回るんだけど」
自分自身のことなのにまるで分からん。さっきのバシリスクの時より頭が回っているぜ。
「それが貴方の力よ」
アーティはまるで当然のように言っているが、そうかなぁ?
左手で後頭部を掻きつつ、半眼でため息一つ。
「まぁ、こんな状況だから何が起きても不思議じゃないが。そーゆーもんかね?」
「そーゆーものよ」
アーティが言うんだったらそーゆーもんだろ。
俺はあらかた地図に書き込むと、地図を丸めて懐に仕舞い込んだ。懐中電灯の1つを持ち、アーティに差し出す。
「いらないわ」
拒否られてしまった。なんにも見えなくなるぞ?
まあもっとも、化け物じみた力を持つアーティには必要ないかもしれないけどな。
「そっか」
懐中電灯2つに電池4本を持って、配管修理店から車へ移動する。
ショッピングモールに理奈たちがいる保証はないが、武器は全部持っていかないと。ここに置いといて誰かに持って行かれてもシャクだし、頭のおかしな奴らに渡ったら俺たちまで危険になりかねない。鍵閉めても窓ガラス割られるだろうしな。
俺は武器弾薬その他が入ったリュックを背負い、同じ様な物が入っているバッグを左手に持った。
「武器……は、まあ金属バットでいいか」
銃声が出る銃器は駄目だし、アーチェリーは邪魔になる。となれば、必然的に金属バットと短刀でやるしかないだろう。
すんげぇ動きにくい装備ではあるが、右手の金属バットとアーティを頼りにしよう。
「んじゃ行くか」
「そうね」
俺たちは、一番近くにあった配管修理店の裏のマンホールへと向かった。
その途中で、配管修理店の廃棄品らしき山を見つける。
「ん? なぁアーティ、アレ使えそうじゃないか?」
その中に、まるでデカい釘のような金属の棒を発見し、指さした。
「…………そうね。私が貰っておこうかしら」
アーティはそれを拾い上げると、マジマジと見つめる。
だが次の瞬間、彼女は中国舞踏顔負けに棒を振り回し、かっこよく演舞を決めた。
「……気に入ったわ」
「そ、それはよかったな」
もう今更だからあまり驚かないけどさ。お前は本当に小学生か? というか人間か?
とにかく、アーティが気に入ったのなら良い。これで戦力アップだな。
「んじゃ、気を引き締め直して行くか」
「ええ」
俺は廃棄品の中のバールを使い、マンホールを開けた。
中を覗いてみる。マンホールの中は真っ暗ではあったが、見えない程ではない。
安全を確認し、俺から先に降りる。うげぇ、くっせーっ!
バッグ持ってるし、金属バットあるしですんげぇ降りにくかったけど、なんとか降りた。
「こんな感じなのか下水道って」
薄暗く、臭いもひどいし、きたねぇし、人が住むのには適さない場所だ。
まぁ、だからこそゾンビにはお似合いではあるな。
「は~、うちの女性陣は絶対に来たがらない場所だな」
理奈もああ見えてきれい好きだしな。アーティ位だろう、ここが平気なのは。
「行きましょう」
「…………はぁ。そうだな」
いかがでしたでしょうか?
…………ま、まあ久しぶりですから。多目に見てください。
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