第42話 あれ?短くね?
良祐達が研究所を出発した頃、冬紀達はショッピングモールに辿り着いていた。
「入り口にゾンビが居るけど、数は多くないみたいだ」
軍用車の上部ハッチから顔を出す冬紀が、目を凝らしながら視認した情報を車内のみんなへ流す。その情報に、車内ですし詰め状態のみんなは、各々様々な反応を示した。
「ぶっつぶせ!!」
という理奈や、
「いえ、誘い出してその間に向かった方が消耗は少なくて済むわ」
と、冷静に作戦を立案する早織、
「車で轢いちゃえば〜?」
などと、呑気に語る美鈴も居れば、
「あれってデモ行進ですか?」
以前説明して理解したはずなのにそんな事を言う円がいる。
車内で十色の反応を示すみんなに、ハッチから顔を覗かせる冬紀はただ、溜息を吐いて、ふと呟く。
「こんな時良祐ならどうしたんだろう?」
誰も答えを持っていない状態でその問いは残酷すぎる。以前の彼の反応だったら多数決を持って決めていたかもしれないが、現在の彼は誰も知らない。
行方も、考え方も、誰と居るのかも、何もかもだ。
結果論で言えば、実質上のワンマンアーミーを経験した良祐はそのような方法は取らないだろう。意見を取り入れ、自分も立案に参加する。おそらく、そういう思考になっているだろう。
他人にばかり頼っていては、彼は今頃、ゾンビの仲間だ。
故に、冬紀の問いは答えなど無い。現時点で良祐が居ない以上、当然の帰結である。
だが、元から答えなど無いことを知った上での問いかけ。冬紀は、考えを振り払う様に頭を振り、自身も作戦立案に参加していった。
「後、もう少しか?」
日没前、ショッピングモールへと続く国道を走行途中、標識に書かれた文字を見て呟いた。
標識には――後15キロ――と書かれていた。完全に陽が落ちる前に着ける距離だ。ただ、なんか。
「どうかした?」
なんて、様子がおかしい俺に、助手席に乗ったアーティは声を掛けてくれる。それに俺は、
「嫌な予感が……しないでも、ない」
曖昧な答えを、苦い表情で呟いてみたり。はっきり言って勘でしかないが、何となく、思う。
別に進行方向に変わったものがあるわけでもないし、変な音を聞いたわけでもない。
前方には変わらず、放置された乗用車や、事故った乗用車、ゾンビに噛まれて出た鮮血や、事故で死んだ死体が、まるでゴミの様に、放置されているだけだ。なにも変わったところは、おそらく、無い。
「それじゃ、警戒だけでもしておきましょう」
こういう時、読心してくれるアーティが、少し、嬉しい。言いたく無いようなことも、その時の心情も、全部分かってくれる。若干面倒臭い時もあるが。
だから俺は、覚られるのを承知で、心の中で感謝する。ありがとう、と。
「よし、スピード上げるか!」
言ってから、アクセルを少し、強く踏んだ。
車外に流れる景色が、速度に応じて、我先にと早く流れていく。
それきり俺もアーティも、無言になった。何故なら、会話の話題が無いからだ。
聞きたい事はある。が、どうせアーティ答えてくれないし。
「なにか……」
「んっ?」
とても小さく、聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で、アーティは突然言葉を発した。
「何か言ったか?」
「なにか聞きたいこと、ある?」
それはとても魅力的なお誘いだった。アーティに聞きたいことなんて山ほどある。でも、
「そうだな……」
アーティは何でそんな事を言い出したんだ?研究所では話してくれなかったのに。
疑問はある。だけどそれ以上に、興味がある。が、唐突な心変わりが気になるのも事実。
視線だけをアーティに向けると、その表情は今までに見た事の無い顔をしていた。
俺はアーティじゃないから詳しく分からないが、彼女の表情は不安……なのか?
はあ……ったく。
「聞きたいことは無い」
「…………えっ?」
俺の言葉が予想とは違ってたからか、アーティはさっきと同様、見せた事ない呆けた顔になっていた。
そんなに意外だったか?
「聞きたいことはない。けど、聞かせてもらいたいことはある」
「…………」
くさ過ぎたか?これは俺のキャラじゃないな。けどまあ、これが俺の精一杯だ。
「話したくなったら話してくれれば良い」
やっぱキモイな。これは俺のキャラじゃねえし。
アーティは何も言わずに、ただ意外そうな顔のまま俺の顔を見ていた。
止めろよ恥ずかしいじゃねえか。
「良祐、気持ち、悪いわ」
「区切らんでいい!!」
運転している俺の心を抉るな!事故るぞ!?
うわっとと!言ってるそばから事故りそうになった!!
気をつけないと。
「…………ありがとう」
運転に集中していた俺は、アーティが何を言ったのか聞き取れなかった。
いかがでしたでしょうか?
…………短いですね。多分最短じゃないかと。
どうも最近、執筆意欲が湧かなくて。
御意見御感想お待ちしています。