第41話 亜種と出会ったら、俺は大体気絶する
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心地良いまどろみの中、聞き覚えのある声に、ふと目蓋を開く。
「あっ、起きた!」
まず視界に映ったのは、心配そうな表情で俺を覗き込む湊の顔だった。
覚醒しきらない頭をフルに回転させて、最初に思い出したのがバシリスクとの戦いだ。奴の胴体を開きにして、本体にS&W M37全弾発射をしたのは思い出せる。が、それ以降が全く思い出せなかった。
「気絶してたのよ」
俺の思考でも読んだのか、姿の見えないアーティがそんな言葉を投げかけてきた。
つまりは、バシリスク倒したら気を失ったわけだ。よくよく考えればそれも無理ない。走って走って走って食われたからな。アレ? ハーメルンの時もこんな感じじゃなかったか? 流石に慣れたが。
無限ループに陥りそうだったので、とりあえず考えるのを止め、仰向けの体を起こす。体を起こすために、少し離れてもらっていた湊の肩を借りて、俺は完全に立ち上がった。まだ少し動かすのが億劫な体で、辺りをゆっくりと見回す。
「アーティ、無事だったか」
どうやら場所は研究所で変わりないみたいだ。ただ、充電式自動発光体の蓄電した電気が切れたのか、室内はさっきと打って変わって真っ暗だった。と言っても、見えないほどじゃない。そんな目のおかげで、アーティをすぐに見つける事が出来た。
「おかげさまで」
相変わらず無表情なアーティにも流石に慣れたな。
一間開けて辺りをもう一度見回すと、ランドさんたちが居ないのに気付いた。その節を湊に聞くと、
「上で待ってるよ」
という返答が返って来た。どうやら先に脱出したみたいだ。
ということは、湊とアーティは俺が起きるのを待ってくれていたのか。感謝に尽きるな。
「それじゃあ、待たせるわけには行かないな」
俺たちは外へ向かう階段に向かった。もちろん、X−7を忘れない。
後々聞いた話だが、あの研究所にはサンプルは居なかったようだ。研究所にある可能性が極めて高かったため、他の場所はデータにはないとか。ゾンビ発生時の混乱に乗じて逃げ出したかもしれないとランドさんは言っていた。つまりは、全て振り出し。サンプルがどこに居るのか全く分からない状態だ。
その事も考慮して、彼らにこれからどうするのか聞いたが、サンプル捜索に戻ると言っていた。当ては無いそうだが。
俺はそこまで付き合うわけにも行かないので、ここで彼らとはお別れだ。
「お元気で」
「じゃあね」
アーティは俺と行動するそうだ。その目的は依然として不明ではあるが、彼女の人間離れした身体能力は頼りになる。今の所支障がある訳でも無いし、彼女の同行に俺は快く了承した。
「2人モナ」
「良祐〜、2人ッキリダカラッテ変ナ事スルナヨ〜」
失礼な。俺はロリコンではない。
ていうかクルスさんのキャラが何となく判ってきた気がする。
「仲間と会えるといいわね」
「はい」
マーシャさんはとても優しくしてくれた。まるで姉のように、まるで母のように。
俺にも姉と母は一応居るが、あんなだし。
「またね」
「ああ、また」
湊には色々教えてもらったな。年齢が近い事もあって、良い友達になれたと思う。
俺は全員と握手をし、出発する4人をアーティと見送った。
あの人たちだったら生きていそうだ。俺が生きている限りは、また会えるかもしれないな。
「行くか」
「そうね」
4人が乗る軍用車が見えなくなった所で、俺たちは乗用車に乗り込み、次の目的地へ向けて車を走らせた。
「次はどこへ?」
助手席に座るアーティの問いに、俺はすぐに返答を出す。
「ショッピングモールだな。それしか思いつかない」
ここからだと日没前には着ける距離だ。そこに理奈たちが居なければ、もう打つ手が無い。
俺の携帯ぶっ壊れたし。公衆電話で掛ければ良いじゃん。と思った人も居たかもしれないが、それは不可能である。何故なら、俺はあいつらの電話番号を知らない。赤外線で番号をメモ帳に登録したから、メモ帳から選択して通話ボタンを押せば、番号を知らなくても電話は出来る。つまり、便利すぎたが故に、俺は今、途轍もなく困っていると言う事だ。
「ご愁傷様」
「そりゃどうも」
アーティの慰めはトゲがある。もう少し優しくしてくれよ。
ハッキリ言ってダル過ぎる体を酷使して、俺は車をショッピングモールへと向けた。
“遭遇”という言葉を聞いたことがあるだろうか? 当然あるだろう。何年も生きていれば流石に1回は聞く言葉だ。では、その意味を知っているだろうか? “思いがけず出会うこと”が、正しい意味である。
“遭遇”とは、雪崩といった自然現象にも適応される。もちろん生物にも、人間にも適応されるのだ。
何故、こんな事を言うのか疑問に思うだろう。
それは簡単である。“思いがけず出会うこと”が、言いたかったからだ。
例えば“思いがけず出会う”相手が、生物だとしたらどうだろう? 危険であれば十人十色の反応を示すかもしれないが、危険でなければ、おおよその2パターンに分類される可能性が高い。
それは、“無視”か“興味を示す”かである。
その“無視”か“興味を示す”かは、人間である場合は大体がこれになってしまう。危険があるとはあまり考える事はしない。
しかし、その遭遇した人間が、おかしな見た目をしていたら警戒はするだろう。
ゾンビと遭遇した場合は、見た目がおかしかったから人間は全滅せずにすんだ。勘の良い人間が生き延びる事にも成功はするだろう。
だが、もし見た目が普通なゾンビが居たら?
それでも、人間はしぶとく生き残るだろう。何て言っても、ゾンビは足が遅い。簡単に逃げ切れる。噛み付かれる距離まで近付けば、どんなに鈍感な人間でも、そいつがゾンビだと流石に気付く。後は走って逃げれば、生き残れるだろう。
――――が、もし、そのゾンビが、“見た目が普通”で、“走れたら”どうなる?
よっぽど勘が良い人間か、運動神経が神がかっている奴じゃない限り、生き残ることは難しい。それがたとえ、ゾンビを殺し慣れ、ゾンビの亜種みたいな化け物を何体も殺している人間でもだ。そんなゾンビと“遭遇”したら、本当に命を懸けなければならなくなるだろう。しかし、もしの話である。そんなゾンビ居るはずが無い。――――と、思っていた人間は、
東海林市駅の目前。そこに死体の山となってゾンビどもに食い荒らされていた。
ゾンビの数は少ない。3体ほどである。が、次の瞬間、
ゾンビに食い荒らされていた死体が、5体ほど起き上がった。
その見た目は、限りなく人間に近い。遠くから見たら、本当に人間と間違えそうなほどだ。
そんな8体のゾンビは、生きている人間を見つけると、ゆっくりと歩き出す。
「何だあれ!!?」
ゾンビに狙われた男性は、背を向けて走り出す。当然の判断だ。しかし、
8体のゾンビは、ゆっくりとしていたはずの足取りをドンドン速め、次第には、
「何で走ってんだよぉ!!」
平均男性となんら変わり無いスピードで走り出す始末。もはやゾンビとは到底思えない。
だが、走るゾンビとは思っている以上に恐ろしい。それは恐怖、それは畏怖。
「あっ!?」
そのせいで足がもつれたものなら、その生存者は、もう立つことは出来るはずもない。
というより、
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁああぁぁあああ!!」
立つ前に食われるのが末路である。
いかがでしたでしょうか?
ふと思ったんですけど、今回のサブタイトルって遠回しに1パターンって言ってるにも等しいですよね。まあ、否定はしませんが。
湊らと別れ、ショッピングモールへと向かう2人!危険な臭いがしないでもない?
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