第33話 こっちの手の内は揃った。次はお前が晒す番だ
お楽しみください
外に出て先ず出迎えてくれたのは、大量のゾンビだった。
「マジか……」
「ひい、ふう、みい、…………30ぐらい?」
アーティ、落ち着きすぎ。もうちょい慌ててもいいんでねえの?まあ、別に良いんだけどね。
ただ、ゾンビが何故か俺たちを認識しているのには首を傾げる。俺たちは音を出してないのに。
「交戦は避けられないか……」
アーチェリーでは分が悪い。ここはUSPだな。
レッグホルスターからUSPを抜き、こっちに向かってくるゾンビ2体をヘッドショットする。
「アーティ、ちゃんと付いて来るんだぞ?」
「子供に言い聞かせる様に言わなくても分かっているわ」
見た目小学生がそれを言いますか。
とまあ、こんな感じに雑談している時間も、どんどん無くなっていっているわけだが。
「先手必勝。車まで行けば俺の勝ちだ」
――とは言っても、目標は対するゾンビの向こう側。こっちに近接武器は無し。遠距離は火力が少ない。=絶体絶命だ。火力が弱いこの銃器で、映画版バイオハ○ード4の様なアクションをしなければならないとは……。まあ、それより悪いけど。援護ねえし。
ともかくやるしか無いだろう。時間は無い。
手薄な右側の垣根に向けて走り出す。両手構えのUSPで三発撃つが、1体を屠るに止まってしまった。
「やっぱまだこんなもんか……!」
静止状態ならともかく――という呟きは銃声にかき消された。俺はUSPを撃って無いぞ!?
途中で足を止め、銃声がした――――ゾンビの向こう側へ視線を向けた。
「大丈夫!?少年!!」
視線の先には軍用車両と、その周りに3人の男女が居た。全員、弾倉等を収めるベストを着て、手には何かしらの銃器を持っている。傍から見れば、怪しい集団だ。
その集団の中でも異彩を放つ、俺と歳があまり変わらないであろう少女が居た。声を出したのは彼女だろう。少女は最前線で、短機関銃を両手にゾンビを蹴散らしている。
「あ、ああ……」
異様な光景に、そして圧倒的な戦力に、俺は思わず息を呑んだ。
そんな俺に、アーティはニヤニヤとした表情で笑いかけた。
「良祐〜、怖気づいた?」
「今、タイミング違くねえか?」
それはさっき言う言葉だろう。何故、今言った?
ツッコミを軽くスルーされ、しかもアーティは何を思ったのか、ゾンビに向かって歩き出していく。
「危ないぞ!」
「平気平気」
俺の制止も聞かずに、アーティはゾンビの中へ姿を消してしまった。
死んだか?――そう思う前に、ゾンビの垣根の中で踊る白い少女を見る。
――――アーティだ。
彼女は、噛み付こうと両腕を伸ばすゾンビたちを物ともせず、まるで踊る様にひょいひょい避けていた。
「アイツ本当に人間か?」
そして、俺と同様に呆然としている銃器集団の所まで、難無く辿り着いた。
最早、俺が足手まといの様な感じになっているじゃないか。
「早クシロ!」
少女の集団の黒人の男性が、俺を促すように叫んだ。
アーティの様には行ける筈も無く、俺は手薄な所をそのまま走る。
途中、向かってくるゾンビ2体を、1体はUSPのヘッドショットで、もう1体はアーチェリーの矢で眼球を刺すことで切り抜けた。
「ちぃ!」
アーチェリーの矢を捨て、一目散に走り抜ける。と同時に、銃器持ちの少女が何かを投げるのが見えた。――――手榴弾だ。
その形状はリンゴの様に見える。前に何かで見たが、確か別名としてアップルとかいう名前を付けられた奴……。
――――思い出した。正式名称、M67破片手榴弾。
爆破地点から数メートル、数10メートルに亘って、生成破片を撒き散らす殺傷武器。それが破片手榴弾。それに硬質鉄線を追加したのがM67破片手榴弾だ。爆破はレバーが離れて――5秒。もう既に2秒が経っている。
「間に合え……!」
俺は急加速と同時に、最適な物影へ向け走った。残り時間すら忘れたまま、コンクリートの塀の向こうに身を隠した瞬間、爆音と共に空気を揺るがす振動が発生、破片が容赦無く猛威を振るった。
「普通やるか?破片手榴弾なんて……」
精々、閃光手榴弾か焼夷手榴弾だろうが。…………それも危ないな。
落ち着いた所でゾンビどもを見ると、爆発で死んだ奴が中心辺りに居た。その体は撒き散らされた破片でバラバラ、ぐちょぐちょ。その中心辺りから距離をおいていく毎に、被害は治まっていくものの、ゾンビの半分ぐらいは破片で動かなくなっていた。
「俺は地獄を見た」
今までにも何度も見ているだろうが。というツッコミを胸にしまい、俺はアーティたちの下に走っていった。
ゾンビの垣根を越えた俺とアーティは、謎の集団の助力と、俺の頑張りによって、ゾンビの群れを壊滅させた。――――まあ、数は両手ほどしか居なかったけど。
それから集まりだしたゾンビから逃げるために、とりあえず車を走らせ、今は大手家電量販店の立体駐車場に車を忍ばせていた。
「どなたか知りませんが、助力感謝します」
「困った時はお互い様でしょ?」
車の近辺で、まだ言ってなかった感謝を述べる。それに、集団の中の一番若い少女が反応を返した。無言で差し伸べられた右手が、交流の証とばかりに、俺の脳内で一瞬の戸惑いを生んでしまう。ただ、ここで渋っても心証が悪くなるだけだし、何も言わずに差し出された右手を握った。握手だ。
「俺は前原良祐。16、高2です。自由に呼んでください」
ここは助けられた俺が先に名乗るべきだろう。――と、俺の名前を聞いた瞬間、未だ握られた右手に多少の変化が見られた。本当に多少だったので、一瞬見逃しそうになったが。それでも少女は、何事も無かったかのように元に戻ってしまった。
「オレは篠書湊。18の高3だからタメ口で良いよ。湊とでも呼んでくれ」
初めて見たぜ、女性が自分の事をオレって。本当に居るんだな。ていうか先輩だったのか。
湊を良く見ると、黒髪を俺と同じくらい短く切り、人懐っこそうな栗色の瞳を携えて、まるで男のようだが、目元や鼻や口が女性特有のラインで整われていた。美少女と言っても過言では無い。いわゆる、守るより守られたいタイプだ。
ミナト嬢はようやく手を放すと、自分の仲間を紹介してくれた。
「この真っ黒いのがランド」
真っ黒いの呼ばわりされたランドさんは、黒い肌に坊主頭、それらだと優しそうな親戚のおじさんなんだが、目元を跨ぐ様に出来た大きな傷が目立ち、190を超える巨体が圧巻の雰囲気をかもし出していた――――が、
「ヨロシクナ〜。ジャパニーズボーイ」
めっちゃ軽っ!?優しげ!?もう本当に親戚のおじさんじゃん!?
ランドさんとは友達になれるかもしれない。
「次に白いのがクルス」
「君ノ“バトルセンス”ハ良イネ!今後トモヨロシク!」
白いの呼ばわりされたクルスさんは、とても俺を評価してくれているようだ。その金髪をオールバックにした髪形に、青色の瞳、イケメンと言っても差し支えない。そんな彼はニコニコしながら握手してきた。――――が、
「ミナトニ手ヲ出シタラ……」
耳元で小さく囁いて行きやがった!?脅迫!?
クルスさんとは一線を画しとこう。命が無くなりかねない。
「それで最後にマーシャ」
最後に紹介されたマーシャさんは、金髪の長髪を後ろで纏めたポニーテールで、モデルかのような容姿に、栗色の瞳がマッチしていた。歳はクルスさんと同じぐらいの20歳前半か?
「ヨロシク。仲良くしてね(特にミナトと)」
最後の方は聞き取れなかった。何て言ったんだ?
しかし、それを考えるのを止め、こっちの紹介してない人物を俺の後ろから引っ張り出す。
「この子はアルテミスだそうです」
どうやらアーティは恥ずかしいのか、俯いたまま視線を上げようとしない。
そして俺の後ろにまた隠れてしまった。はあ、しょうがないな。
湊はそんなアーティを見て、俺に、
「良、その子の格好って貴方の趣味?」
「…………違う。アーティとはさっき会ったばっかだ」
最初は分からなかったが、どうやらボロ布一枚体に巻いただけのアーティの姿を、俺がそうしたと勘違いしている事にようやく気付き、それを補足含めて訂正する。
「ふ〜ん」
「俺からも聞きたい事がある」
「何?」
俺はそれよりも、少女たちの武装について興味があった。良くは分からないが、使っている武器のほとんどがそうそう手に入らない銃器だったからだ。日本に密輸入されている武器でも無いし(多分)、数も異常。弾薬に銃刀法が適用されてない上、軍用装備まで持っている。更には洩れなく全員が戦い慣れし、戦場帰りの兵士の様な風格を伴っている。――――湊もだ。
「アンタたちは、何者?」
その問いに、湊は結構ある胸を張って答えた。――――馴染みの無い答えを。
「オレたちは“民間軍事会社ヴァンガード『特殊任務実行部隊』”。
その第一種特装執行官で構成された、第一種精鋭集団だ」
いかがでしたでしょうか?
専門用語がビッシリ。頭が痛くなりそうです。
ちなみに手榴弾とかはもちろんウィキ調べです。
新たなる邂逅!出会った集団は民間軍事会社の特殊部隊員?
それでは次回!御意見御感想をお待ちしています!