第32話 俺はロリコンでも変態でもない。更に紳士でもない
お楽しみください
ビルの構造は5階建てのようだ。階段は不完全で、まだ出来てない所が多数ある。
一面コンクリートだが、所々鉄骨も見えたりするのが危ない気がする。崩れたりしねえよな?
「ゾンビが居ないのが唯一の救い……か」
油断無くアーチェリーを構えながら、とりあえず造り掛けの階段の前まで来た。
――――踊り場まで階段が無い。高さは2メートルちょっとか?――――でも、これ位なら行けるかもしれない。
辺りにゾンビが居ないことを確認して、アーチェリーを踊り場に放り投げる。それから、急いで踊り場に向けてジャンプした。
踊り場の縁に両手を掛けて、腕の力だけで体を上に持っていく。これが地味にキツイ。
体を振り、左足を踊り場に掛けられた。そのまま、腕と足で体を踊り場に乗せる。ようやっと、階段を上がることに成功した。
「俺、万年皆勤賞の帰宅部だぞ……?」
寝転んだまま、弱音の一つでも言いたくなってしまう。しょうがないことだ。
しかしまあ、そのままというのは流石にマズイので、早々にアーチェリーを持ち、立ち上がった。
「これ、続けなきゃならねえのか?」
という不安は杞憂に終わる。次階の階段は造り掛けではあったが、作業員用の足場があったのだ。
どうやらこのビルは1階から5階まで直通のようで、作業員用の足場で、難無く一番上の5階まで来れた。
5階は無骨さを極めた位、何も無い場所だった。分かりやすく言うなら、一面のコンクリート、以上である。
しかも、ここからは異常な雰囲気が漂っている。それは、ただの高校生でも分かるような、とても、
「気味の悪い空気……」
だった。感じるだけで逃げ出したくなるような。
俺はアーチェリーを背中で保持し、レッグホルスター(と資料に記述してあった)からUSPを抜く。
屋内では近接武器の方が有利なんだが、生憎今は無い。ならばせめて、アーチェリーよりかは使いやすいUSPで戦うことを、俺は選んだのだ。
「初日ゾンビ、2日目ハーメルン、3日目ミュータント、まさかまた新しい奴出ねえよな?」
まさかだ。そんな調子で新種のゾンビと遭遇していったら、1年経った時が怖いわ。356種、覚えきれねえよ。
実際には、俺は1日寝てたから、355種だ。大して変わらねえー。
心を保つ為にそんな事を思いつつ、ゆっくりと足を進める。USPを両手で構えて、前方に向けた。
広い空間では全方向へ警戒を向け、壁際では物陰を注意しながら、5階の探索を開始する。
ゾンビは(当然)居らず、居る可能性が高いのは、ミュータントと新種と生存者だ。可能性を全て考慮し、気を緩めず進んでいく。――と、
「ん?」
とある壁際、その床に、少し――かなり汚い布切れが落ちていた。
「何だこれ?」
しゃがんで布切れを拾い上げると、なんとも言えない臭いが漂ってきた。……洗濯してねえな。
うおっ、気持ち悪くなってきた。イラネイラネ、ポイッ。
――俺は即行で布切れを捨てた。
『人の服を捨てるなんて酷いわ』
「誰だ!?」
辺り一帯に響くように聞こえたその声に、俺は瞬間的に後ろへUSPを向ける。
しかし、そこには誰も居なかった。幽霊?んなわけねえか。
「どこ見てるの?」
「コンクリート」
やべえ、冷や汗が止まらねえ。真後ろから聞こえる声は間違いなくやべえ。
反射的にボケ(?)で回答したが、少女の声したコイツは只者じゃない。
このゾンビ発生の状況下で、少しばかり五感が鋭くなった俺に、足音無く、気配無く、触れられる距離に移動してきやがった。
現に俺の背中に手?を触れている。な、何だ?後ろに振り向けない。
大量の汗が頬を伝って地面に落ちる。後ろの少女?は、ひょっとしたら――人間じゃ無いんじゃないか?
「ねえ、どうして、振り向か、ないの……?」
「ぁ……!ぅ……!」
一区切り一区切りする少女の声が、余計に俺の恐怖を煽る。
――が、俺は無意識に恐怖に抗う。そして、ゆっくりと、機械の様な動きで、視線を後ろへ向けた。
「女の子……?」
「あら?声で分からなかった?」
そこには、肌も髪も真っ白な、裸の少女が佇んでいた。
…………ちょっと待て。このネタはZ指定モノじゃないのか?
「そう直視しないでくれる?」
「す、すまん……」
少女は見事なぐらいに何も着ていなかった。――下着すらだ。
俺はこうゆうのには何て事無いが、青少年だったら鼻血ものだろう(俺の場合は相手が少女というのも要因の一つではある)。
とりあえず視線を逸らしておく。流石にガン見出来る程勇者じゃない。
「というか服を着ろ」
直視するなと言うから服を着るのかと思ったが、少女は一向に服を着ようとしない。
「こっちの方が喜ぶと思って」
「俺を変態みたいに言うな!!」
残念ながら俺にロリ属性は無い。確かクラスメイトの田下が、「俺は幼女が大好きだ!!幼女愛してるぅぅぅぅぅ!!」とか大絶叫して、数人の先生に連れてかれた事があったが、俺の知る所ではない。ちなみに俺はどっちかって言うと、年上好きだ。
――すまない。脱線してしまった。
少女は渋々と俺が捨てた布切れを拾うと、それを身に巻きつけた。
――――俺はどう反応すればいいんだ?
「服は?」
「これ」
即答された。俺は、溜息一つでそれを了承した。それから少女に、
「他の生存者は?」
と問いかけると、
「いないわ。私だけ」
と返答してくれた。
そこまで言った少女は、もう何も言わない、とばかりに口を閉ざしてしまう。
やれやれ、質問は無しか。しょうがない、じっくりと聞き出そう。――その前に。
「名前は?」
「…………アルテミス」
ギリシア神話の狩猟の女神の名前だ。あと月の神でもあるとか。
神の名を冠する少女とはな。偽名は当然だろうが……。この少女は色々ありそうだ。
「わかったどう呼べばいい?」
「何でもいい」
「じゃあアーティだ」
今は分かった振りだけでもしておこう。後々聞き出すしかあるまい。
この見た目小学生の少女が、歳に合わない雰囲気を出してるのも気になるしな。
「俺は……」
「前原良祐でしょ?」
「どうして知っている?」
名乗ろうとしていた俺の言葉を遮り、アーティは俺の名前を的確に言い放つ。
そして俺の問いには欠片も反応を示さずに、そのまま歩き出してしまった。
「おい、一人だと危ないぞ」
「心配してくれるの?」
「そりゃあ……な」
アーティは振り返って、歳相応の笑顔を浮かべる。――――不覚にも萌えてしまった。
俺は右手に持ちっぱなしだったUSPをレッグホルスターに戻し、背中からアーチェリーを抜く。
「それじゃあ行こう良祐」
「命令するな」
何故かとても嬉しそうなアーティが前を歩き、俺が後ろを歩くと言う不可解な構図になってしまった。
ちなみにその時の俺には恐怖は微塵も無かった。ただ、アーティの不思議さが先行していただけかもしれないが。
いかがでしたでしょうか?
駄目ですね。暑さで頭が回りません。
少女との邂逅!それがもたらす未来とは?
それでは次回会いましょう!御意見御感想をお待ちしています!